タイ政府がネット検閲の導入検討

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金盾が海外輸出?

タイ政府がネット検閲の導入検討

タイ政府が同国のインターネットを規制するシステムを検討している模様。システム自体は金盾とそっくりで、タイへまたはからの通信を検閲するものになるという。

歴史の深いクーデターと検閲

タイ政府がネット検閲の導入検討

タイで検討されているシステムの名前は「Single Internet Gateway(シングル・ゲートウエー)」と呼ばれる。この規制システムは、SNS(ソーシャルネット)やIM(インターネットメッセンジャ)を対象として動作するようだ。

導入が計画されている経緯は、2011年のインラック政権が起こしたゴタゴタから始まっている。タイでは、国内の政治が混乱するたびに、タイ軍部がクーデターを起こして沈静化を図ってきた。今回も、軍事政権が2014年に起こしたクーデターにことを発している(詳細:タイ軍事クーデター (2014年))。

以前のクーデターでは、マスメディア(テレビ・新聞)を抑えておけば民衆が自主的な運動を起こすことはなかった。しかし、インターネットの普及にともない、これら伝統的なメディアは相対的に力を失い、その代わりに出てきたのがSNSやIMである。軍事政権やその後の暫定政権は予防処置として、これらの新メディアに規制をかけようとしているのだ。

タイ軍事政権の報道官は29日、政府職員を数日中に日本やシンガポールに派遣し、ソーシャルメディアの検閲強化に向け、メッセンジャーサービスを手掛けるLINEや米フェイスブック(FB.O)、グーグル(GOOGL.O)などに協力を求める方針を明らかにした。(中略)

Pisit氏は、クーデータ後、情報通信技術省がウェブサイト監視やコンテンツ遮断を目的とする委員会を新設したほか、同省に加え、軍や通信規制当局が24時間、オンラインの利用状況を監視していることを明らかにした。また、これまでに100を越えるウェブサイトへのアクセスが遮断されたという。

タイ軍事政権、検閲強化でLINEやグーグルに協力要請へ | Reuters

今まではスポット的に手動や人力で行ってきたようだが、ネット上には無数のサイトやグループが存在する。そこで、これらの遮断をシステム化して、恒常的に行うということだろう。

反対運動で政府サーバダウン

もっとも、去年2014年に記事にされたあと、表立って本プロジェクトが出てくることはなかった。しかし、先日政府が本プロジェクトを極秘裏にすすめていることが発覚し、タイのネットで再び議論が活発になっている。特に、抑圧されそうな非主流派からは強く反発を受けており、マスメディアも盛んに取り上げている。

The Pheu Thai Party has declared its opposition to the single internet gateway being considered by the government, saying it would do more harm than good.

Pheu Thai opposes single internet gateway | Bangkok Post: business

お祭り騒ぎが好きなタイ人の気質なのか、反対運動は過激化。ついには、政府サーバをダウン(DDoS攻撃)させる状況になっている。

この計画に対し、ネットユーザーやメディアは「ネット検閲やプライバシー侵害の恐れがある」などと批判。9月30日から1日にかけ、反対派が呼び掛けた政府サイトへの大量アクセスで、情報通信技術省のサイトがダウンするなどした。

軍政がネット統制計画=「検閲」抗議で政府サイトダウン―タイ (時事通信) – Yahoo!ニュース

副作用の多い検閲システム

タイ政府がネット検閲の導入検討

このSingle Internet Gatewayは、1つの国に複数接続されている外部との窓口(Gateway)を1本化し、そこに金盾同様検閲の判定を行うシステムを置いて管理するという方法である。この仕組からSingle Internet Gatewayという名前になっている。

ただ、中国を行き来する邦人であればわかると思うが、副作業が非常に大きい。反対派からも副作用を懸念する箇所も見られる。

A single gateway handling a lot of data would slow down internet services and might cause nationwide internet services to collapse totally if there was a technical problem.

単に外部アプリ(FacebookやTwitterなど)が使えなくなるだけではなく、標準機能が使えなくなる可能性も高い。たとえば、先日リリースされたiOS9に新しく追加されたニュースアプリは中国国内で使えないためニュースで取り上げられている。

Apple has disabled its news app in China, according to a person with direct knowledge of the situation, the most recent sign of how difficult it can be for foreign companies to manage the strict rules governing media and online expression there.

Apple Is Said to Deactivate Its News App in China – The New York Times

もっとも、タイは中国と産業構造がよく似ており、1次産業(農林水産業)と2次産業(製造業)でGDPの半分以上を占めている(タイが55%、中国が56%-いずれも2013年)。通信の制約を受けて打撃を受けやすいのは、IT業やITを組み込んだサービス業がメインとなる。IT化が進むアメリカや日本のように産業構造が高度化されているならともかく、そこまで影響力のない国であれば、経済への打撃は比較的小さいのかもしれない(ちなみに、日本は70%、アメリカは75%が3次産業)。

懸念点としては、中国は独自のネットワーク網を作ることに躍起になっている。欧米主導のインターネット世界に対抗して、独自のネットワーク世界を作ろうとしている。もしも、先日のインドネシア高速鉄道計画同様に、タイ政府に金盾のシステム、ノウハウ、資金などを中国政府が出資して取り込みしだすとかなり厄介である。

タイのSingle Internet Gatewayがどうなるのか、今後も興味深くウオッチしていく。

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