AIが中国共産党を批判
中国語メッセンジャーの大手 テンセント(Tencent 騰訊)のQQで、AIが中国政府や中国共産党を誹謗したとして大騒ぎになっている。この騒ぎ、実は中国政府のVPN規制につながるのだが、おわかりだろうか?
AI開発競争と中国
このAIは、中国語版QQに搭載されている”Baby Q”と呼ばれるAIロボット。中国語版でのみ存在しており、国際版や日本語版では使えない。
では、AIロボットはどういうものか?と言うと、ユーザ(人間)からの問いかけに対して、人間らしい応答をするというプログラムである。
この分野はここ数年で技術が大幅に向上しており、ITのトップ企業であるGoogle、マイクロソフト社やFacebook社などが競って投資・開発を行っている。AIについては、第四次産業革命を起こすと言われるほどインパクトがあるとされている。コールセンターなどパターン化できる単純労働の一部では既に導入が始まっている。
QQやWeChatを開発・提供するテンセントもこの分野に力を入れており、中国のIT大手『百度』と並んでシリコンバレーにAI研究センターを設立し、アメリカ国内の優秀なエンジニアを雇用、AIのイノベーションに取り組んでいる。その結実の1つが、QQに実装されたAIロボットの名前が”Baby Q”なのである。
腐敗して無能な政治と断罪
そんな期待を背負ってリリースされた”Baby Q”であるが、あまりにも素直すぎたようだ。
たとえばだが、『共産党万歳』とユーザの発言に対して、『あなたはこんなに腐敗し無能な政治に万歳できるのか?』とバッサリ。
さらに『何が愛国なのか?』との問いかけに対しての答えが痛快である。
『即使随着裸官的增多,官商勾结,政府税收的增加…政府对普通人民压迫的严重。依然还愿意做一个中国人,这就叫爱国』
意訳:たとえ、裸官(腐敗官僚のこと-詳細は下記)が増えて、政商が癒着し、税負担が増加し、政府の人民弾圧が深刻化したとしても、依然として中国人になり続けたいとすること、これこそが愛国である
ちなみに、裸官とは腐敗官僚のことを指すが、詳細はWikipediaが詳しい。
配偶者や子女などの家族を留学等の名目で外国に移し、家族に外国の国籍や市民権を取得させ、国内で汚職などによって不正蓄財した財産を外国に送金し、本人は官僚として単身で中国国内にとどまっている者
すごいぞ、Baby Q!
AIはどのように会話しているのか?
ところで、この”Baby Q”に限らずAIロボットが、どういうからくりで会話をしているかご存知だろうか?とてもざっくりと説明すると、フレームワーク(たとえば言葉の並び順など文法)の上に、相手が発言した語句と関連したものを並べているだけである。
ディープラーニングというのは「ツイッター」「フェイスブック」「Skype」などから膨大な会話データを収集し、単語と単語の繋がりや関連性を学習しています。そして、人間に話しかけられたら話しかけられた文章と関連性の高いものを返すようにしているのです。
つまり、AIロボットは決められた並び順に、相手の発言と関連する語句や例文をどこかから引き出して並べているのである。では、このテンセントのAIロボットはどこからデータ(語句や例文)を引っ張ってきたのか?
FacebookやTwitterなどであればとてもかんたんだ。全世界にいるユーザを言語ごとに分類して、データとして活用ができる。また、ウエーブサイトに掲載されているコラムやブログなども参考になる。こういうデータをプログラムで引っ張って、関連付けすれば会話の成立だ。
しかし、中国ではそうはいかない。
中国政府がVPNを含む情報規制に走る理由
中国では公開可能なサイト、サービスにはすべて検閲システムの事前チェックが入る。したがって、公然と政府や中国共産党を批判するデータを流すことができない。これは、QQやWeChatのMomentも同じである。
そこで注目したいのが、QQについているメッセージ同期処理だ。これは、スマホのQQ会話ログがパソコンでも見られるという機能である。会話内容が個人vs個人であれ、グループであれ記録されているということだ。政府批判ができて、データとして残るのはここくらいなのだ。
言い換えれば、”Baby Q”のこれら政府批判は、一般市民のリアルな思いがベースになっているのだ。そして、こういう回答が真っ先に来るということは、それだけ関連性(頻度)が高い証拠なのである。
テンセントや中国当局が慌てたのは、”単にAIが政府批判したこと”ではなく、”人民の政府や中国共産党に対する思いが暗に公になったこと”であろう。
このような危険な状況において、自由な情報アクセスや情報発信は致命傷になる。当局がコントロールできないメディアを徹底して取り締まるのもうなづける。
中国政府は、市民の間で人気のスマートフォン上の交流サイトを使って動画やコメントを発信する、いわゆる「個人メディア」について内容が不適切だとして、このうち300件以上を一斉に閉鎖したと発表し、ネットの管理を徹底的に強化していく姿勢を打ち出しました。
また、海外にアクセスができてしまうVPNの規制に、中国当局が血眼になるのも当然の流れと言えよう。
先月末頃から中国政府は、自国にドメインを持つメールサーバについて、発信先のブロックを始めている。まさになりふり構わずとはこういう状態である。
If you do use a Chinese e-mail provider, you will find that you are no-longer able to send e-mail to many blocked domain names. While websites like twitter.com, facebook.com, youtube.com and 12vpn.com have been blocked in China for a long time, their e-mail still worked. Now their e-mail is blocked as well. You may be able to receive e-mail from them, but your reply will not arrive.
今後も中国政府の情報発信・情報手段への規制は強化が続くのは予想できる。引き続きウオッチしていきたい。
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