国家がデータの存在を左右
数週間前に話題となった中国サイバーセキュリティ法案。意見の受付も終わり近く成立する見通しだ。この法案、国家がネット世界に無制限に介入できる権限を規定しており、欧米の自由主義と正反対。ネット世界でも覇権を唱えるつもりなのだろうか?
介入の度合いに歯止めがかからない
サイバーセキュリティ法案にはいくつかトピックがある(参考記事:サイバーセキュリティ法案を公表)が、一番の目玉は、情報やその拡散への介入を国家が権利として持っていることを明記していることだ。
针对删除权,草案规定,公民发现网络运营者违反法律、行政法规的规定或者双方的约定收集、使用其个人信息的,有权要求网络运营者删除其个人信息;发现网络运营者收集、存储的其个人信息有错误的,有权要求网络运营者予以更正。
各企業や運営者に対して情報保護を求める一方(こちらは建前だと思われるが)、公開や削除について一定の責任を求めており企業負担は軽くない。もともと中国政府や中国共産党は、国家が厳格に制御するネットワークコミュニティの構築を目指しており、それに沿った形だ。
サイバーポリスを企業内に配置!?
法制度上の整備を着々と進める当局が、単に制度上の権利にとどまらず、物理上の行使を試みる報道が出てきた。実際にセキュリティーポリスを主だった企業内に配置し、直接監視をする試みである。
中国は、警察官を配置した「ネットワーク・セキュリティー・オフィス(網安警務室)」を主要なインターネット企業内に設置することを計画している。政府によるインターネット利用者の監視を強化する動きだ。
中国公安省はサイバー攻撃に対する防御を強化し、犯罪活動に対抗する目的で「重要な」インターネット企業に警察官を置くと、国営新華社通信が同省の会議を引用して報じた。
犯罪活動の防止としているが、これが外資企業にまで伸びるようであれば-そして、その可能性は高いのだが…-、産業スパイに早変わりである。企業にとって、特に外資や先駆的な企業にとっては邪魔以外の何者もでもない。
当局はネットの拡散力に戦々恐々
これだけ中国当局がピリピリするのには理由がある。それは、何度も申し上げるようだが、中国共産党の基盤自体が脆弱であることだ。中国人民の中国当局や共産党への信頼度は低い。もちろん、公になる数字では読み取れないが、激増する暴動や毎年規制が強化される理由を考えると、政府自身がそれを感じ取っているからであろう。実際に、公然と発言し問題となった騒ぎもある。
ソーシャルメディアが中東や北アフリカの政権崩壊を後押しした時、中国人民解放軍の上級大佐は、米国に支配されているインターネットが中国共産党政権を転覆させかねないと公然と警告した。この上級大佐ともう1人の中国人研究者は、中国共産主義青年団の機関紙「中国青年報」の共同論文で、インターネットが世界支配の新たな形だと指摘した。
新しいプラットフォームを作ろうという心意気とアメリカに一辺倒なこのネット世界に一石を投じる姿勢は評価したい。ただ、そこに暮らす国民だったらと思うと、ゾッとするが。
民の口を塞ぐは…
司馬遷の史記には、言論の自由を制限することの怖さを引き合いに出した箇所がある。
周朝の第10代王厲王(れいおう)は暴政を敷いた。国を思う家臣が進言すれば殺害され、人民を監視し密告を推奨した。人民は密告を恐れて、路上ですれ違っても挨拶すらしないという状況になった。その状況を見かねて召公が言ったのが次の一文である。
民の口を防(ふさ)ぐは、水を防ぐより甚だし。水壅(ふさ)がりて潰(つい)えば、人を傷(やぶ)ること必ず多し。民もまた此の如し。
原文:周本紀
あまりの暴政に耐えかねた人民が暴動を起こし、厲王を殺害しようとしたため国を追われたとなっている。中国当局が監視を強めれば強めるほど、制約を強めれば強めるほど、状況は似たものになる。
歴史は繰り返すことになるか、中国ウオッチから目が離せない。
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