中国インターネット規制の旗振り役逮捕

中国インターネット
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墓穴を掘ったネットの皇帝

既報だが習近平政権2期目で、初となる大捕物がでた。今回拘束されたのは、中国の情報規制を行う部署出身で、政権1期目からのネット規制強化を旗振りしてきた人物だ。自らの規制強化で自身を救えない同氏は、いまどのような心情であろうか?

習近平2期目、初のトラ

今回逮捕されたのは、元国家互联网信息办公室の責任者であった人物。報道では政権2期目の初となる大物(トラ)であること、そして習近平がすすめてきた反腐敗作戦が、今後も継続することを取り上げている。

党中央規律検査委員会のウェブサイトに21日夜に掲載された短い発表文によると、魯氏(57)には「重大な規律違反」の疑いが掛けられている。この文言は通常、汚職や権力の乱用を指す。

中央規律検査委は発表文で、「第19回共産党大会後で初めての虎だ!」と説明。今回の動きは「核心である習同志の下で党の厳格な規律を適用する決意」を示すものであり、「反腐敗運動が和らぐことはないという強いシグナル」だと主張した。

中国「ネットの皇帝」を重大な規律違反疑いで調査-反腐敗運動やまず

政権1期目では、同じ太子党で陝西幇であり、そして習近平の旧友でもある王岐山が辣腕をふるって二人三脚で反腐敗作戦を実施してきた。しかし、そのナンバー2と見られていた同氏も、今年10月の党大会で党中央規律検査委員会書記を退任。今後の反腐敗作戦の行き先に日和見感が漂っていた矢先であった。

ネット規制強化の立役者

上述しているが、今回拘束されたのは宣伝工作を統括する党中央宣伝部前副部長である。

同氏が有名なのは、現行の肩書ではない。彼の経歴は、党中央規律検査委員会に記載されていて誰でも見られる。略歴を見てみると、習近平政権が成立(2012年11月)した直後の2013年4月から、中国のモバイルを含むインターネットの指針を決める国家互联网信息办公室の責任者を務め、さらにネット規制について策定する中央网络安全和信息化领导小组办公室(以下、中央网信办)に2014年5月から2年にわたり旗振り役をやっていた。

文字通り習近平政権のネット規制強化を、現場で取り仕切ってきた実力者である。

2013.04——2014.05 国家互联网信息办公室主任兼中央外宣办、国务院新闻办副主任
2014.05 中宣部副部长、中央网络安全和信息化领导小组办公室主任、国家互联网信息办公室主任

中共中央宣传部原副部长鲁炜涉嫌严重违纪接受组织审查

しかし、そんな立役者も規制の抜け穴をほぼふさぎ終わり、強化路線が安定したので不要になったのであろう。時の政権からポイされたわけだ。

古巣からはジキルとハイド呼ばわり

同氏が拘束された直後に、元職場である中央网信办は、同氏のネット規制(浄化)の功績を認めつつも、その裏で起こした規律違反について強く批判、党への忠誠を強調する声明文を出している。

会议指出,鲁炜曾经担任中央网信办主要负责人,但他严重背离了党性原则,严重违背了党中央对党员领导干部的纪律要求,严重污染了网信办的政治生态,严重败坏了中央网信办和网信干部队伍的形象,严重危害了党的网信事业健康发展,是一个典型的“两面人”

(意訳)鲁炜はかつて中央网信办の主要な責任者であったが、彼は党の原則、党中央党員の指導部規律に著しく背き、网信办の政治的核心に傷をつけ、同組織幹部等のイメージを損ない、党が推し進めるインターネットの健全な発展を危機に陥れた、典型的な二面性のある人間である。

中央网信办传达学习中央对鲁炜涉嫌严重违纪进行组织审查的决定 坚决拥护中央决定

批判の下りが北朝鮮とレベルが変わらないなぁと思うのだが、いかがだろうか。

なお、ネット規制強化に関わった主要メンバが拘束・逮捕されるのは初めてではない。2015年にも元中共公安部科技信息化局原副局長で金盾プロジェクトの主要メンバが拘束されている。

中国の古典・史記に『狡兎死して走狗烹らる(狡兔死走狗烹)』という故事がある。意味は”兎を捕まえる猟犬も、兎が死んでいなくなれば用無しになり、煮て食われることから、価値があるときは大事にされ、なくなれば簡単に捨てられること”である。

今回の拘束などは、まさに具現化したものである。

主張したくとも自由の場がない

いくら功績がある人でも、それを盾に私服を肥やしたりするのは許されない。しかし、今回の規約違反(党への背信行為)は本当なのだろうか?

もしかして『お前は知りすぎた』で表舞台から強制退場させられたのではないかと思うのだ。もっとも、彼が何かを主張したくても、そのような場は彼自身が潰してしまったので中国には既にない。

先日もインターネットに政権について不満を公表した弁護士が、実刑判決と政治権利の剥奪をされている。文章を投稿して国家転覆を問われて実刑である。

中国政府や現行の司法制度を非難し国家の安全に危害を加えたとして、国家政権転覆扇動罪に問われた人権派弁護士、江天勇氏の判決公判が21日、湖南省長沙市の中級人民法院(地裁)で開かれ、懲役2年、公民権剥奪3年の実刑判決を言い渡した。

人権派弁護士に懲役2年の実刑判決 中国当局、締め付け強化

この論理でいけば独立とも取れる「自己決定権」発言した沖縄県知事の翁長雄志や反政権を掲げて各地でシュプレヒコールする福島みずほなどは懲役2年ではすまされないレベルになってしまう。

たとえ無実だったとしても、このまま彼は何もできないまま実刑が下るであろう。インターネットの皇帝は、今どんな気持ちで過ごしているのだろうか?

党籍はく奪+財産没収

その後の調査で、インターネットの皇帝こと魯煒は、党籍剝奪と公職追放の処分に加えて、財産の没収が決まったようだ。今後は収賄罪でさらに立件が進むようだが、党が認定した容疑内容がモヤモヤである。

規律検査委の調べでは、魯氏は党中央の方針に従うふりをしながら裏でたてつき、職権を乱用したほか、政治的な野心を膨らませて党内で派閥をつくるなどした。また、ネット管理も個人的な判断で対象を選んで進めたほか、規律違反の調査にも正直に答えなかった。さらに、職務権限を使って他人に利益を与える見返りに巨額の財産を受け取ったとしている。

最後の利権は別とすれば、ほかの3つ(職権乱用、派閥生成、個人的な判断で行動)を厳格に適用するとトップがまずは裁かれそうだが…。

なお、同氏は2018年7月30日に他の反腐敗運動対象者と同時期に起訴された。

北京时间7月30日,中国最高检发布消息,浙江检察机关对中宣部原副部长鲁炜涉嫌受贿一案提起公诉。2017年11月,鲁炜因涉嫌严重违纪被查。

今日中国:胡海峰再提习近平指示 网络沙皇鲁炜被公诉

网络沙皇鲁炜の”沙皇”はツァーリ(ロシア・ツァーリ国)の中国語訳。意訳すると”ネットの皇帝鲁炜”である。奇遇にもそのツァーリことロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世は拘束されたあと、ろくな裁判もないままロシア皇帝の象徴として殺害されている。

同じように彼もネット規制の象徴として裁かれるのだろうか…?

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