先月9月20日から27日まで日本の財界が訪中した。そのさい、中国当局に出した要望に「撤退」の環境整備が含まれており、日中両国のネットで話題になっている。
進出した企業の清算、譲渡の規制が煩雑で、実際には事業再編ができないことについて改善を求めた。
ネットで取り上げている内容は、中国進出の日本企業が一斉引き上げが始まる前触れでありそのための法人精算の簡素化だと言うもの。
ブログでも掲示板でも、中国のナショナリストは歓迎。自称経済系(?)一部メディアは恐慌が起きるかも?などと面白おかしく書いている。日本のまとめサイトも同じような傾向だが、いずれも落書きレベルである。
難しい中国撤退
今回の要望提出は、中国で法人を精算するのが難しく、トラブルが絶えないことが原因である。2012年にNHKでこの問題を取り上げた特集が組まれたが、4年経った今でもあまり変わらない。
改革開放政策が本格化した1980年代の中国はカネない・技術ないだったため、人と土地を貸して、税務上の優遇政策を採用、外資を積極的に呼び込んだ。その結果の経済発展が、中国共産党独裁の肯定要素であるだけに、外資の撤退を認めて社会不安の連鎖を防止したいのが政府の思惑であろう。
撤退方法は大きく分けると次の3つ。
- 持ち分譲渡
- 解散・清算
- 破産
自由経済主義の国で事業が破綻していれば清算型の破産手続きになる。しかし、この中国で外資が破産手続きをするのは極めて難しい。
民事責任で出国禁止
手続きが開始した場合でも、中国子会社の董事(長)や総経理などが民事責任を追及されて人民法院に召喚されると、中国からの出国が禁止されるとそのままにっちもさっちもいかない状況になる。
第一百二十五条 企业董事、监事或者高级管理人员违反忠实义务、勤勉义务,致使所在企业破产的,依法承担民事责任。
第二十八条 外国人有下列情形之一的,不准出境:
(二)有未了结的民事案件,人民法院决定不准出境的;
日本の出入国管理及び難民認定法(いわゆる入国管理法)にも似たような規定はある。しかし、これは刑法犯の嫌疑がある場合に限る。
第二十五条の二 入国審査官は、本邦に在留する外国人が本邦外の地域に赴く意図をもつて出国しようとする場合において、関係機関から当該外国人が次の各号のいずれかに該当する者である旨の通知を受けているときは、前条の出国の確認を受けるための手続がされた時から二十四時間を限り、その者について出国の確認を留保することができる。
中国の場合は、刑事にかぎらず民事でも出国禁止ができる。また、その規定が不明瞭で恣意的なところが要注意だ。実際、駐在員が出国できずに抑留されニュースになるケースがある。直近では、2年前に韓国造船系メーカで似たような事例が発生している。
1元で株をたたき売り
これらのリスクを回避するため、持ち分を譲渡して撤退するのがスムーズと言える。ただ、足元を見られて徹底的に買い叩かれる。菓子メーカーのカルビーの事例は典型例である。
カルビーは4日、台湾系の食品・流通大手、頂新グループ傘下企業などと中国で手掛けてきたスナック菓子の合弁事業を解消すると発表した。合弁会社の持ち株を30日にも合弁相手の康師傅方便食品投資に1元(約19円)で譲渡する。
同社が中国市場に投下した総額は不明であるが、設立時に資本金2,000万USDの51%を出資している。
同社が発表する決算によれば2013年度に7.8億円、2014年に7.4億円の営業赤字を出している。キャッシュショート防止の追加出資(と言う名の資金移動)していたとすれば目を覆うような惨状だ。市場で投資が失敗することはしょうがない。ただ、参入と退出の自由がなければ投資意欲は低減するので、冒頭の要望は当然であろう。
もっとも、私の所属企業でも年間売上の1%相当の赤字を中国事業で垂れ流しているので人のことは言えないのだが…。お後がよろしいようで。
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