中国企業が日本に工場を構える日

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中国の通信機器メーカ华为(Huawei)が日本に工場を設立する。今回は、研究用途だが、そう遠くない将来、多数の中国企業が日本に続々と生産拠点を作る日は近いのではないか?

生産工場ではなく研究所

日本経済新聞を含む数社が取り上げた記事が以下のような内容。日経に限らず、中国企業初の工場建設を大きく取り上げた記事が多い。

通信機器大手の中国・華為技術(ファーウェイ)が初の日本生産に乗り出す。年内にも大型工場を新設し、通信設備や関連機器を量産。日本の技術と人材を取り込み、日本や他の先進国で受注を増やす。事業買収や研究開発拠点の設置が中心だった海外企業による対日投資が生産まで広がる。中国企業が日本に本格的な工場を新設するのは初めて。

華為が日本に通信機器大型工場 中国勢で初、技術吸収:日本経済新聞

日経は生産拠点として取り上げていたニュースだったが、その後別のメディアがファーウェイ・ジャパンに確認したところ、生産拠点のための工場ではなく研究施設としての工場という回答があり、スケールダウンしている。

新設する施設は「工場」ではない。品質をさらに向上させるための”製造プロセス”をパートナー企業とともに研究するための「製造プロセス研究ラボ」であり、「R&D施設」

ファーウェイが千葉に作るのは「工場」ではない —— 新設するのは特殊な研究施設だ | BUSINESS INSIDER JAPAN

ファーウェイは全体で年間売上が750億ドル(2016年 約8兆円)規模。

日本では通信機器端末が有名だが、中国国内では通信拠点やその設備まで含む通信事業のスペシャリストである。アメリカの大手企業上位50社のうち、9割が同社の製品を使っているなど裾野は広い。この売上規模を単純に日本企業と一緒に並べると、ソニーやパナソニック、東芝などを抜いて8位の世界規模の企業で、日本でも3大キャリア(NTTドコモ、ソフトバンク、au)すべてに端末を収めている。

フォーブスの「アジアの優良上場企業50社」には上場企業のため含まれないが、断り書きに必ず入ってくる常連である。そんな世界的な企業が日本に生産拠点を構えると思っていただけに、少し残念である。

”世界の工場”から”世界に工場”を

中国企業はすでに数年前から、海外に不動産などへの直接投資はもちろん工場なども展開している。プラントの企業から利幅の低いアパレルまで多種多様だ。2016年は前年比で4割増しの1,890億ドル(約21兆円)に上っている。

Chinese foreign investments hit record high in 2016 | The BRICS Post

これら製造業の海外投資には、現地生産によるリードタイムの短縮やブランド力の強化などもある。また、習近平政権が推し進める”一帯一路”政策の後押しを受けて、進出するケースもあるようだ。

そんな進出の様子を次のインタビューがとてもピッタリと表現している。

以前中国是全世界的工厂,原料和市场两头在外,加工地在中国,这只是第一个阶段。现在发展到第二个阶段,全世界是中国的工厂,中国要到全世界开工厂

专访中国建材董事长宋志平:我们为什么要去美国建厂?-瞭望智库

まさに、”世界の工場である中国”から、”世界に工場の中国”である。

製造業に限って言うと、沿岸地域を中心に止まらない賃金の高騰(各種政府指定の保険料含む)やスタッフ定着率の低さ、加えて近年の環境保護政策の強化が原因で、工場進出は加速するだろう。加えて、環境意識の高まりを受けて当局が積極的な取締をしており、億単位の罰金や経営者が逮捕される事例が後を絶たないのも後押しをする。

賃金が日中で逆転する日

ちょっと興味が湧いたので、どの程度賃金が高騰しているのか取り上げてみる。

中国の給与は90~2000年代ほどではないが、最低賃金が毎年10%弱ずつ高騰している。日本企業が早くから進出している揚子江デルタ地帯である上海を例に取ると、以下のような伸びである。

上海市の最低賃金と伸び率 – 中国企業が日本に工場を構える日

この最低賃金は、給与しか含まれない。企業は最低賃金以外にも、時間外労働賃金や夜勤手当、特殊な労働環境に対する手当、国家規定の福利待遇等を負担しなくてはならない。工場だと残業が定期的にあるので、諸手当含めると手取りで3,000RMB以上もらえる。

また、企業は他にも社会保険料の企業負担分や住宅積立金なども負担しなくてはならない。これらの負担利率は数年に1度改定されるが、直近では養老(年金)保険が20%、医療保険6%、失業保険1.5%、出産(生育)保険0.5%、労災保険0.5%である。

上記の負担金を単純に加算すると、企業が実際に負担する金額は30~40%ほど膨れる。

実際の企業負担金額 – 中国企業が日本に工場を構える日

その他にも、工場では春節前に1年をねぎらって忘年会が開催するケースが多い。こういう細かい負担も馬鹿にならない。工場長(日本人)が『以前は安い2G/3G携帯で喜んでいたのが、今ではiPhoneなどを出さないと盛り上がらない』と言っていたのは印象的だ。

今回は生産拠点ではないとされた千葉県の最低賃金も年ごとに並べた。そこに22日間/月で工場勤務したら…を想定して併記するとこうなった。

日本で最低賃金で働かせると? – 中国企業が日本に工場を構える日

健康保険と厚生年金が労働者と折半であるものの、最低賃金の低さと伸び率が低いので、実際に工場が負担するべき金額は17万円程度にとどまる。

このまま、日中両国で保険料等負担や賃金の伸び率を維持したとしたら、以下のような推移になった。

日中賃金推移 – 中国企業が日本に工場を構える日

GDPは2009年に中国に抜かれているが、企業負担の目から見た賃金レベルもこのまま行くと2020年前半で抜かれることになる。工場運営の中で原価の次に負担が大きいのは人件費である。中国企業が人件費高騰を嫌って、日本に工場を移転するのもおかしい話ではない。

もっとも、こんなかんたんに逆転はしないだろう。また、大企業に対しては中国の各地方政府も誘致に躍起で、税制含む優遇は多い。そうだとしても、日本経済の元気がない現在、中国企業が続々とやって来て日本経済を活気づける日は意外と近いのかもしれない。

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