『中国向けサイト診断レポート』が誰向けなのかわからない件

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百度の日本法人が、日本の企業や地方自治体向けにネットでのインバウンド支援サービスをはじめる。このサービス、考えれば考えるほど誰向けなのかがわからないのだ。なぜか?を解説。

中国に特化したサイト診断サービス

日経新聞社が『中国向けサイト診断レポート』なるサービスがはじまったと報じている。百度の日本法人と手を組んで、インバウンド獲得に取り組む団体や企業の支援をデジタルマーケティングから行うものだ。

中国のインターネット検索大手、百度(バイドゥ)の日本法人は中国でウェブサイトが問題なく見られるか診断するサービスを始めた。中国政府のネット検閲などが原因で、中国語サイトのコンテンツが表示されなかったり、表示速度が遅かったりする問題が発生している。インバウンド需要を獲得したい企業や自治体に解決策を提示する。

ちゃんと表示される? 百度、企業の中国語サイト診断

サービスを提供するのは、百度の日本法人ではなく、パートナーである株式会社レクサー。ホームページを拝見すると百度以外にソフトバンクのパートナーのようだ。

同社のサイトには、このサービスの詳細が紹介されている。

1日1回の限定であるが、ドメイン状況を診断する『China Check FREE』も提供。試しに秋頃にブロックされた”search.yahoo.co.jp”を診断したところ、以下のような判定。

海外からアクセスした場合、どのように表示されるのかはVPNなど使えばある程度は再現できる。ただし、中国の場合はそういったサービスが皆無のため難しい。

そこで中国国外のサイトまたはサービスを運営し、中国向けにリード生成したい企業や団体に適切なサイト設計をするためのアドバイスを行うわけだ。

ここまで書くと魅力的に思えるかもしれない。が、どうにもこのサービスが”誰向け”なのかがわからない。

ネットユーザを増やすための施策

サイトの改善活動(いわゆるSEO)と呼ばれるものは、一般に2種類。1つは流入チャネルの強化、もう1つが離脱率の改善である。

流入チャネルの強化は、サイトにやってくるユーザを増やすための施策である。サイトにやってくるユーザの流入元は、大きく分けて4つ。

  • SEO/検索(Yahoo!やGoogleなど)
  • SEM(検索エンジン連動の広告)
  • 参照(リンクやソーシャルメディアなど)
  • ダイレクトリンク(ブックマークなど)

当サイト(10万PV/月間)の場合、検索サイトから77%、SEMは広告を出していないので0%、参照が13%(うちFacebookやTwitter経由が2%)、残りがダイレクトリンクである。企業や団体のサイトも流入の割合は概ね同じだと思われるので、検索からのユーザを増やすことはインバウンド獲得の早道になる。上述のサービスは、この検索を改善するわけだ。

もう1つの離脱率の改善は、せっかく来たユーザが見て欲しいページを見ないで帰ってしまうのを防ぐ施策だ。一般に表示されるまでの時間が長くなるとユーザは見ないで帰る(ブラウザを閉じる)ことが多く、この改善もサービスに含まれている。

つまり、このサービスの提案内容自体はおかしくない。

SEOの限界と金盾

疑問なのは、その有効性である。

ドメインブロックに対策なし

このサービスの紹介ページ、冒頭にこんな文句がある。

『中国からアクセスできますか?』

以前確認して問題がなかったからと言って安心してはいけません。
状況は、日々変化しています。今日、正常に動作しているサイトでも明日には、エラーになっている可能性もあります。

中国のドメインブロックは、百度やHaoなど検索サービスを提供する企業ではなく、中国政府が体制維持のために国策として行っている。たとえば、診断の結果が『御社のサイトはドメインブロックされていますね』の場合、手のうちようがない。

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このサービスでドメインブロックが外せるならば、Facebookのように資金力のあるサービスは、既に中国に戻っているはずだ。

離脱率改善のまやかし

もう1つの離脱率の改善も疑問符である。

ユーザはサイトの表示に時間がかかればかかるほど離れてしまう。記事を読むみなさんも『日本のサイトがなかなか開けず諦めた』という経験は1度や2度ではないだろう。

完全に表示されるまでに3秒以上かかると、53%のユーザーはページを離れる

表示速度が1秒→7秒で直帰率は113%↑、モバイル向けサイトのUXはとにかくスピードが命

この表示にかかる問題も前項と同じで金盾が原因だ。

これは金盾のフィルタリング処理が複雑怪奇なため、中国と海外のネットワーク帯域に問題がなくてもここで引っかかる。おまけに7秒どころではなく、数十秒かかる。サイトにGoogle MapsやFacebookのリンクを張るのは論外としても、これら改善をしても”めちゃめちゃ重いサイト”が”重いサイト”になるくらいである。これでは離脱率は依然高いままであろう。

診断サービスの改善活動(SEO)には、金盾という越えられない壁がそびえているのだ。

カモネギは、誰なのか?

このサービスの行き着く先は、”リードを増やすためにSEM(広告)をガンガン打って流入ユーザを増やしましょう!”になる。

ドメイン離脱率を減らすための施策に限界があるため、流入を増やしてリードを増やす作戦である。止血処置に限界があるので、出血したままの患者に大量の輸血をしてしのぐのだ。営業でたとえると、案件の契約率が低いため、訪問数をカネに物を言わせて積むということ。

しかし、百度の広告費は安くない。百度のロジックは、Googleのそれと比べると2~3世代ほど古くSEOを施行しても限界があり、一般に広告と合わせて実施しないと効果がないのは有名だ。そのため、広告を出す企業は日本よりも多い。加えて、資金力がある企業も多い。主要なキーワードを狙っていくと100万円/月も多い。

ここで先の『”誰向け”なのかがわからない』になる。

SEOやSEMにそれなりにお金を出せる企業は、すでに中国国内にドメインを持ってデジタルマーケティングをしている。某複写機メーカーなどがいい例だ。

それができない企業や予算に乏しい地方自治体に、このサービスを持っていってどうするのだろうか?である。

SEOだけでも、対策がされていないサイトよりは幾分マシかもしれない。ただ、中国人はサイトへの信憑性が低いので、積極的な広告を打たない場合効果は限定的だ。

メンツで買い物する中国人
ものの良し悪しは二の次中国ビジネスの記事で最近見かけるキーワードがある。ずばり「SNS」だ。今年の春節注目された「爆買い」の火付け役としてみているのだ。ただ、中国における口コミは、それほど影響力があるのだろうか?

このサービスは結局、少しはお金が出せるけれど中国の事情がよくわからない情報弱者の典型例である地方自治体と中小企業を狙ったカモネギなのでは?と思うのだが、いかがだろうか。

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