社会不安が一段と加速
中国社会のほころびが拡大し続けている。マンションや高級車を現金で買い付ける富裕層がいる一方で、資本は流出し、労働争議が止まらない。中国政府は体制の引き締めに躍起になっているようだ。不安定化する中国にフォーカスを当てる。
売れない地方債
中国が新常態(ニューノーマル)を宣言して半年が経った。経済成長率が鈍化したとは言っても日本の1%台の約7倍。また、中央銀行は利下げを行っており、市中にはお金がジャブジャブとあふれ、活発に動いているように思える。そんな中、とある地方債の需要が立たず延期になったらしい。
中国の江蘇省は23日、計画していた地方政府債の発行を延期した。中国全土の今年の地方政府債発行は前年比4倍となる予定だが、十分な需要がないとの懸念が強まった。
経済が拡大中なのに、地方債が売れない理由は地方債の利率が低い(リスクに見合わない)場合と需要そのものがない場合だ。この江蘇省のとある地方団体の幹部が日本のメディアに自称ではあるものの財政健全発言している。
2年前のことだ。江蘇省のとある地方都市の幹部とミーティングをしていたとき、私が他の地方都市から顧問就任の要請を受けていることを知り、この地方幹部は次のように発言した。
「いま、きちんとした顧問料を払える地方都市は少ない。ほとんど債務で首が回らなくなっている。むしろ、うちと協力関係を作った方がいい。うちは少なくとも財政にはかなり余裕がある」と。
北京、上海さえも過剰な借金を抱える 有力都市の債務比率で見る中国経済の不安|莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見|ダイヤモンド・オンライン
記事が2014年なので発言自体は2012年。ちょうどリーマン・ショックを乗り越えて復活しつつあるときの話だ。中国政府が地方自治体の債務について躍起になっている中、その後の2年で信用リスクを落とすほどの地方債を発行しているとも思えない。そう考えると後者の需要不足が持ち上がってくる。だが、国内の資金はどこへ行ったのか?すべてとは言わないが、海外に逃げているのではないかという観測が広がっている。
中国国家外為管理局(SAFE)が23日公表したデータによれば、3月の純資本流出額は238億ドル(約2兆8450億円)と、少なくとも1年ぶりの大きさとなった。1-3月の外貨準備高 は過去最大の減少を記録し、中国人民銀行(中央銀行)が人民元相場を下支えするため外貨準備のドルを一部売却せざるを得なかったのではないかとの観測が広がった。昨年10-12月(第4四半期)の資本収支は少なくとも1998年以来の大幅な流出超だった。
急増する労働争議
中国国内からカネが逃げている様子は、労働者サイドからもうかがえる。国内で起きた労働争議は急増しており、人数ベースで見ると20%を超えている。
人力資源・社会保障部の李忠報道官は24日の記者会見で、1-3月に仲裁の申請があった労働争議は前年同期比16.8%増加し、約19万300件に達したと明らかにした。増加ペースは前年10-12月の12.6%増を大きく上回った。関係した労働者の数は24.8%増の約27万5600人で、これも10-12月の15.5%から加速した。
争議の理由が、”未払い賃金や解雇と補償金”などが冒頭に出てくるからわかるが、労働者までお金が落ちていないようだ。
街中にあふれるプロパガンダ
そんな不安定な社会を引き締めるために、習近平体制は国民の視線を中国共産党から逸らすのに必死である。昔から体制が危なくなると国内の民族対立や海外との紛争を引き起こすのは古典的な手である。
国内向けには、反腐敗運動とウイグル・チベットとの民族対立を煽っている。国外向けには、近隣諸国である日本はもちろん、近隣のベトナムやフィリピンなどと意図的に軋轢を高める一方、AIIBなどで成果を強調しているようだ。
それと同時に力を入れているのがプロパガンダである。地下鉄では、抗日戦争の映像やらニュースやらを頻繁に垂れ流し、街中に中国共産党キャンペーンを展開している。地下鉄でよく目にするのがこの広告。
街なかにはベタベタと中国共産党賛美のポスターが貼られている。たとえばこんな感じだ。
最近、街灯でよく目にするのがこの中国夢シリーズ。法治、民主、公平、誠実などおおよそ無縁の12のキーワードと一緒に並んでいる。この広告の愉快な箇所は向かって左側。
そこには大きく、「中國何以強緣有共產黨(中国は共産党がいたから強くなった)」と。ここまで自画自賛できるととても清々しい。
問題は比較的発展している上海ですらここまで街頭キャンペーンをやらないとダメなのか?ということ。上海は一時期、この手の広告がほぼ見えなくなるほど少なくなっていた。しかし、ここに来て、一番恩恵を受けているはずの一級都市でここまでプロパガンダを打たないといけないほどまずい状況なのだろうか?
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