中国にプロは存在しない

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ダイナミック・チャイナ

中国にプロは存在しない

中国にかかわるようになって10年が経つ。昔と比べると、いろいろ変わった。田畑はつぶれて高層ビルが立ち並び、自転車の代わりにフェラーリが爆音を撒き散らす。もちろん、変わらないこともある。その中から、ソフト業界の観点で1つ取り上げる。

変化をし続けた中国社会

中国に技術プロは存在しない

最初に訪れたのは、上海。高速道路がまだ一部しか通っておらず、タクシードライバーが華の職業だった頃。外灘や外人が多いレストランやバーへ行くと、タクシーから降りる人は物乞いや物売りに囲まれた。携帯電話は持っていることがステータスだった。特に、ノキアやモトローラは人気が高かった。

今は、タクシードライバーと言えば底辺のお仕事。職業はどんどん高度化してきている。携帯電話を持っているのは当たり前。いや、携帯ではなくスマホである。買う買わないではなく、iPhoneかシャオミで悩むようになった。反日デモでは、あれだけ愛国車だの民族車だのと言っていたのに、財布に余裕が出た途端誰も国産車を買わない。中国はどこもかしこも、モノであふれるようになった。

モノ以外にも、意識も変わった。窓口に扇状に群がるのがデフォルトだったのが、少なくとも都心では意識的に並ぶようになった。レストランでも病院でも、並んで待つというスタイルが定着。道にそってゴミ山があったのが、ゴミ箱が設置されそこにみんな捨てるようになった。外国を全否定したり全肯定するのを止めて、それぞれのいいところ悪いところを指摘できるようになった。

爆買いする中国人に、眉をひそめる人が多いのは確か。でも、衣食住が豊かになり、海外での見聞を広げた人たちが、モノだけではなくウチガワも変えたというのを日々の生活で実感できる。

そんな中国で、10年前とほとんど変わらないことがある。それは、「プロ」が存在しないということだ。

プロとはなにか

中国に技術プロは存在しない

ここで指す「プロ」とは、「相手の立場や置かれた環境に歩み寄って、技術的な観点から約束を果たすことができる人」を指す。

私の生業であるソフト業界は変化が激しい。10年前はもちろん、5年前の技術が隅に追いやられる。ただ、表層上はともかく、基本原理や考え方は、ブレがない。だから、1つ自分の根となるものをしっかり習得できた人は、そこから幹を伸ばして、葉を伸ばしていく。たとえば、スマホは新しく出てきたもので、画面の設計などは競争が激しい。とは言え、スマホの動作原理はコンピュータなので、ソフト開発経験があれば、最近流行りのスマホアプリの開発も難しくはない。

成長が早いことは、いいことばかりではない。それに追いつけないエンドユーザさんが多数いる。そこで、自分から寄って行き、適切に助言をしながら、技術を駆使して解決していく。これこそプロだと私は考える。

ところが、こういう人が中国にはいない。

技術者が割を食わない社会

中国で技術者-プロが中国にいない根本理由は、割に合わないに尽きる。その理由は3つ。

報われない社会

1つ目は、社会の構造。中国-正確には発展途上国-では、先進国以上に資産のインフレ率が収益率よりも高い。真面目に働くよりも、土地やお金を転がしたほうがよっぽど儲かるということだ。労働者への還元は、収益率よりさらに低くなる。民主主義国家で、政治が公平・公開されていれば、税制や社会保障である程度矯正が行われる。中国は自由主義経済でもなければ、民主主義国家でもないので、政治の中心にいる人間と政商が雪だるま式に富を増す構造なのだ。

人を大切にしない組織

2つ目は、会社や組織の構造。彼らは単年度でのパフォーマンスでしか物事を見ない。だから、技術畑のようにコツコツ積み上げていくよりも、たとえ販売後に大炎上したとしても売り切ってしまった人が勝つという構造なのである。問題の原因を作った人間はインセンティブをもらって逃亡、その後始末を技術者が延々とやってたりする。

エンジニア自身の問題

3つ目は、技術者そのものの問題。表層上の派手さには目を向けても、その内部や構造について無頓着な人が多い。技術者に一番求められるものは、自分のフィールドに対する熟知と正確さのはずなのに、見聞を元に物事を進めたり、公式ドキュメントを読んだことがない技術者が多いこと多いこと。

複合要因として、これらの結果、顧客に歩み寄って提案してもメリットにならないので、単発の提案しかできない。買い手側が賢ければいいのだが、素人だったりすると高くて無駄なものを買わされるハメになる。結果、社会に不信感が蔓延し、朋友ビジネスしかできない。これが中国の限界である。

起きるべくして起きた天津爆発事故

中国に技術プロは存在しない

では、中国にまったく技術者がいないのかと言うと、違う。優秀な技術者はいる。だが、彼らは上述のように割に合わないので、会社を起こしたり海外に逃げてしまうので、プロの技術者を辞めてしまう。だから、現場にはベテランが一切いないのだ。素人だらけの現場。そういう環境で、天津爆発事故は起きて当然だったと思うし、これからも形を変えて、原因を変えて発生するだろう。

日本の消防士は18~60歳とさまざまな顔ぶれで構成されている。40代以上のベテランともなれば災害現場の経験が豊富であり、現場の中核的存在を担う。だが、中国の消防活動にはこのベテランがいない。彼らは現場を卒業すると、管理職としてそれなりのポストに就き、奥に引っ込む。逆に現場にいるのは、経験のない若者ばかり。主流を成すのは十分な訓練を受けていない「臨時工」というわけだ。

天津大爆発に「何ら驚かない」という中国人 法令をくぐり抜ける企業体質 このままでは第2、第3の事故も | JBpress(日本ビジネスプレス)

今回は大惨事になったので取り上げられているが、大なり小なりこの手の事故は絶えない。中国に住んでいる人ならば、自宅の修理をお願いして、ヒヤヒヤしたことは1度や2度ではないはずだ。プロのいない世界に住む、それは自分自身で細かくリスクコントロールが必要だと言う意味である。

少し話を変えてたとえるならば、中国の航空会社も同じ穴のムジナなんじゃないだろうか。中国国内はともかく、中国外への移動に節約と称して使っている人は多い。でも、今、あなたが乗っている飛行機は、現場をよく知らない(そして、マニュアルすら読まない)人たちに整備されたものだったらどうだろう?私は怖くて中国系の航空会社は乗らない。そんな私は思いすぎなのだろうか?