VPNツールを開発、自身のサイトで販売した男性が、懲役9ヶ月の有罪判決を受け刑務所に収監された。中国当局の意図しないアクセスを幇助した場合、有罪となるモデルになりそうだ。
VPNの提供はシステムへの侵入
中国の判決は公開されており、オンラインでその原文を見ることができる。判決文によると同男性は去年8月に違法なコンピュータプログラムの販売容疑で今年8月末に拘束、同年10月に逮捕されている。
因涉嫌犯提供侵入、非法控制计算机信息系统程序、工具罪于2016年8月24日被羁押,同月25日被刑事拘留,2016年10月1日被逮捕。
販売から逮捕まで
判決の冒頭には、本事案の内容が記載されている。意訳は以下のとおりだ。
2015年秋頃から自宅においてサイト(www.jumoss.com)を作成、同サイトにおいて”飞越SS”というVPNソフトとサービスの販売開始した。
その後2016年2月よりサービスを拡大し、新サイト(www.yingsuoyun.com)に移転。知人(逃亡中)と役割分担をし、当被告人は技術を担当し、知人は同ソフトウェアとサービスを広告を打つなどして拡販を担った。
その結果、VPNのツールとサービスの販売で3万4,157.57元(約57万円)を売り上げ不当所得1万3,957.57元(約23万円)を得た。被告はVPNツールにより中国大陸地区のIPで閲覧のできない海外サイトを閲覧できるようにした。
同被告について、弁護人は同男性が自首し反省していること、金額が比較的小さいこと、初犯であることなどを理由に寛大な処置を求めていた。
それに対して裁判所は以下のように述べている。
被告人邓杰威的作案时间长,影响范围广,其犯罪情节不属轻微,社会危害性较大。故辩护人提出该辩护意见,本院不予采纳。
(意訳)本案件は長期間に渡っていること、犯罪は軽微なものに属するとはできず、社会への危険性は大きい。そのため弁護人の意見は採用しない。
同被告人が運営していた最初のサイトから数えても1年足らずだが、社会への危険性を考慮するとしている。
人民法院の判決
その上で、判決は以下のように厳しいものとなっている。
一、被告人邓杰威犯提供侵入、非法控制计算机信息系统程序、工具罪,判处有期徒刑九个月,并处罚金人民币5000元。
二、随案移送的一部手提电脑,予以没收,上缴国库。
三、对被告人邓杰威违法所得13957.57元,予以追缴。(意訳)被告人に対して有期懲役9ヶ月、罰金5,000元を科す。本案件で使われたノートパソコンを没収とし、不当所得に対して追徴をする。
執行猶予のない実刑判決を受けた上に、罰金刑。さらに雀の涙の所得に追徴とは割に合わない話である。
なお、今回の判決は、その根拠を刑法285条に求めている。
第二百八十五条 违反国家规定,侵入国家事务、国防建设、尖端科学技术领域的计算机信息系统的,处三年以下有期徒刑或者拘役。
解釈を同サイトで、以下のように説明している(この解釈は判決ではない)。
违反国家规定,侵入前款规定以外的计算机信息系统或者采用其他技术手段,获取该计算机信息系统中存储、处理或者传输的数据,或者对该计算机信息系统实施非法控制,情节严重的,处三年以下有期徒刑或者拘役,并处或者单处罚金;情节特别严重的,处三年以上七年以下有期徒刑,并处罚金。
いくつか書いてあるが、国家規定に基づかない方法でデータやアクセス手段を持つことは、厳罰に値するとしている。中国も一応、建前上は法治国家なので今春の取り扱いをもって処罰することはしていないようだが、拡大解釈ではないだろうか?
VPNユーザが逮捕される日
今回の判決が教えてくれることは、金盾などインターネット規制を含む中国当局が管轄するネットワークは、それ自体が国家のシステムであり、当局の規定に反する使い方は侵入扱いになる可能性があるということだ。
ただ、そうであればVPNを利用する一般ユーザも侵入扱いになるおそれがある。VPNのプロバイダーのように積極的な方法ではないが、当局の規定にそぐわない点で同じだからだ。今春の全面禁止報道において、当局が発表したくだりで個人用途の合法性について言及していないのも気になる。
この理論で行くと、VPN利用ユーザが逮捕されるという事件が出てくる可能性がある。
ちなみに、中国の刑法は日本の刑法を手本としているので、教唆犯(犯罪を実行する決意を有しない他人をそそのかして犯罪を実行させる罪)が規定されている。
第二十九条 教唆他人犯罪的,应当按照他在共同犯罪中所起的作用处罚。教唆不满十八周岁的人犯罪的,应当从重处罚。
そう考えると、中国で同僚や友人にVPNを勧めると教唆犯で逮捕される可能性すら考えられる。くわばらくわばらである。
コメント