日本国籍取得までのなが~い道のり
中国人パートナー(中国嫁&中国旦那)に日本人になってもらう。そんな法制度をご存知だろうか?日本国への帰化と呼ばれる特殊な手続きである。生まれつき日本国籍を持っているわれわれと異なり、外国人が新たに国籍を取得するのはかなりメンドウ。そんな体験談(前半)をご紹介。
なお、本記事は”前編だけ”で7,000文字近くある大作になっている。興味がある方、申請を考えている方は、心が折れそうになるのを頑張って読んでいただきたい。
帰化申請とは
まず、言葉の解説。
帰化(きか)とは、日本国籍を持っていない外国人が、国籍の取得を申請して、日本政府がその外国人に対して新たに国籍を認めることを指す。私の体験談で言えば、中国嫁が中国国籍から日本国籍へ乗り換えることになる。
この日本に帰化しようとする外国人が行う申請が”帰化申請”である。正式名称は”帰化許可申請”である。しかし、巷(ちまた)では略称の帰化申請のほうがよく知られているので、以下帰化申請と呼ぶ。
帰化のメリット・デメリット
中国人パートナー(中国嫁&中国旦那)が日本に永住する場合、帰化以外にもう1つ選択肢がある。それは、永住権と呼ばれるもの。アメリカで言えば、グリーンカードである。
帰化も永住も、日本において在留資格の更新にかかる手間を省くという点では同じだ。特に、中国と日本を行き来するライフスタイルの場合、帰化すると以下のようなデメリットもでてくる。
- 中国人パートナー(中国系日本人)が中国で就業する場合、就業ビザの取得が必要
- 中国人のみできること(外貨の持ち出しや証券取引など)ができなくなる
- 中国国内(香港・マカオ除く)で起業するときの要件が厳格化
日本は要件を揃えれば起業は国籍縛られない。そのため、在日中国人で起業する人の多くは永住権のみ取得するケースが多い。
もちろん、帰化のメリットもたくさんある。
- 日本人になるので、日本在住に必要な経済保証人が不要
- 失職等で経済困窮に陥った場合は、社会保障がある
- 欧米含む170弱の国・地域でビザ免除
前述の永住権のみの場合でも、子供に選択肢を残すため、奥さんだけ帰化するケースを複数知っている。
ちなみに、日本のパスポートは、シンガポールと並んでアジア最強である。世界ランキングでも5位と上位チームに入る。ビザ免除されていない地域は日本と国交のない北朝鮮、西側お断りのロシア、中近東の一部やアフリカ内陸部など。よほど理由がない限り行かない国々である。
As of 23 May 2018, Japanese citizens had visa-free or visa on arrival access to 189 countries and territories, ranking the Japanese passport 1st in terms of travel freedom according to the Henley Passport Index.
日本パスポートで行ける地域を色分けした地図がWikipediaに上がっている。緑色はビザ免除地域、薄い緑色が到着時に申請すれば入国できる地域。灰色以外は基本かんたんに入国できると考えていい。
一方、中国のパスポートだと、こんな感じである。ほとんどの国で事前にビザが必要。旅行はもちろん、ビジネスのネタ探しに渡航(書面化できない状態)もビザ必須なのだ。
選択のポイントの1つは、日本<>海外がどのくらいあるかになりそうだ。
なお、うちの中国嫁が日本国籍(帰化)を選んだ理由は、上述の理由どれでもない。発言そのまま引用すると…
嫁曰く『父親のあなた(私)と子供が日本人なのに、母親だけが外国籍では家族としておかしいではないか!』
さようでございますか…(汗)
帰化申請の許可はどのくらいの割合なのか?
この帰化申請、必要な事項を耳揃えて行えば必ず日本国籍が取得できるのか?と言うと、そうではない。
法務省にも以下のように、しっかり書かれている。
この帰化の許可は、法務大臣の裁量権に委ねられる。法律や規則であらかじめ定められている覊束行為(きそくこうい)とは異なる。
第四条 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。
2 帰化をするには、法務大臣の許可を得なければならない。
そのためか、帰化申請にかかる結果(特に不許可)は行政不服審査法においても、適用除外がされている。かなり政治的な行政行為であると言える。
第七条 次に掲げる処分及びその不作為については、第二条及び第三条の規定は、適用しない。
十 外国人の出入国又は帰化に関する処分
ここまで読むと、本申請がとても難解で許可を得るのは不可能なのではないか?と思うかもしれない。
法務省は、この申請にかかる統計を公開している。
文字と数字だけでは、いったいどういう傾向にあるのかさっぱりわからない。そこで数字をExcelに打ち込みして、グラフを作ると驚きの事実が…。
1989年以降(不許可の公表以来)で限れば、帰化申請に対して法務省が許可(帰化できる)を出した割合は、コンスタントに90%を超えている。一時期は99%を超えており、出せば許可されるという具合だ。
何だこれ?
帰化申請の流れ
帰化申請の手順は、同伴ビザ(正式名称は日本人の外国籍配偶者等に対する短期滞在査証)とそっくりである。同伴ビザって何?という方は別記事をご覧いただきたい。
少し異なるのは、事前に法務局窓口にいる法務事務官と相談することと、申請後に面接があることだ。
- 法務局で相談
- 提出書類の作成
- 法務局へ申請
- 面接/追加書類の提出
- 法務大臣へ送付(審査)
申請フローも単純。さきほどの許可率の高さと相まって、かんたんに見えるかもしれない。
では!と言うことで、法務局で帰化申請の相談をすると、”帰化許可申請のてびき”という分厚い資料をいただける。普通に日本人をやっていたら見ることのない資料だ。
まず、この資料の分厚さに心が折れそうになる。
さらに、上述の申請フローにある2と4に出てくる書類が恐ろしくメンドウなので、次項でじっくり紹介する。
帰化申請に必要な書類の山
法務局で相談をすると各状況に応じて、必要な書類が確定する。よくあるパターンを法務省では”必要書類一覧表”としてまとめてあるので、これをもとに申請人は書類を整えていく。
基本書類として以下4点。
- 親族の概要を記載した書面
- 履歴書
- 帰化許可申請書
- 帰化の動機書(自筆)
国籍・身分関係を証する書面
- 国籍証明書
- 出生公証書
- 結婚公証書(父母)
- 親族関係公証書
- 5~8の翻訳文(計4種類)
- 戸籍謄本(日本人配偶者)
ここから外堀を埋めるような関係書類がワンサカ出てくる。
- 住所証明書
- 生計の概要を記載した書面[固定]
- 在勤・給与証明書[固定]
- 源泉徴収票 または 確定申告書の写し
- 納税証明書
- 年金被保険者証
- 自動車運転免許証の写し
- 運転記録証明書
- 最終学校の卒業証明書・卒業証明書の写し・在籍証明書
- 土地・建物登記事項証明書
- 居宅付近の略図
それぞれ注意点を記載していく。これらの書類や注意点は、私が作成した当時である。その後、変化している可能性がある。申請される人は、都度チェックしたほうがいいだろう。
1.親族の概要を記載した書面
単純に親族一覧を記載すればいいだろうと思ったら大間違い。
本人とその配偶者、および親族の一覧はもちろんだが、各登場人物が帰化申請に対して、どういった立場を取っているのか?まで書かされる。
この親族一覧をもとに法務省から、もしもし電話(後述)が掛かってくる。そのため、根回しをしないで適当に記載すると、マイナス点になる。
2.履歴書
履歴書は転職活動に使うような、直近を記載するレベルではない。生まれてからこの申請を書くまでをこと細かく記載する必要がある。
- 出生のときまでさかのぼって、空白期間がないこと
- 職歴がある場合は、アルバイト含めてすべて記載すること
在日外国人で、すべて仕送りでやっていける人は少数だと思う。知り合いの学生または既卒の人に聞いてみると、在学中に複数アルバイトを掛け持ちしていることが多い。そのため、履歴書の記載がかなり錯綜する。
すべて追っかけているのだろうか…?
4.帰化の動機書(自筆)
帰化にあたってどういった心づもりなのか?を表明する作文である。決意表明と言ってもいい。この動機書だけは、サンプルが一切ない。自由に書いてくださいと言われる。分量も書式も指定なし。
さらに…、この動機書の内容をもとに面接される。そのため、物語(内容)を考えた人が本人ではない場合、申請人とのネゴが必須になる。
家内の申請時には、アイテム(要素)をヒアリングした上で、私が文章化。家内と一緒に読み合わせをして、問題ないか確認した上で、清書している。
システム要件定義などヒアリング上手な人なら、楽勝かもしれない。
7.結婚公証書(父母)
結婚公証書と言っても私と家内の関係を示すものではない。それは戸籍謄本に記載されているからだ。ここでの結婚公証の対象は、義父と義母との間に出生しているということを証明するための書類になる。
家内から義両親にこの証明証の存在を聞いたら、文化大革命とその後のゴタゴタで喪失していることが判明。この手続の”ためだけ”に、義両親に再度発行手続きをしてもらっている。
9.5~8の翻訳文(計4種類)
5~8については、それぞれ1字1句をしっかり翻訳して、提出してくださいと釘を差される。翻訳者は、プロでもアマチュアでも構わないらしい。ただし、翻訳者の住所、氏名、翻訳年月日を明記する。
すべて私で翻訳をしたのだが、日本語として意味合いのないものをどう翻訳するか、かなり頭を悩ませた。
11.住所証明書
この証明書は、2の履歴書と対となる。
家内のように日本へ留学、都内を転々、さらに駐在にともなって出国している場合は、すべて除票を使って証明する。また、配偶者が国内を移動している場合、その配偶者の除票または附票で同居を証明する必要がある。
いずれにしても、出入国を含む年月日が一直線につながらないと受理されない。
また、住民票または除票を発行にあたり、以下の事項が記載が必要である。一般の住民票または除票発行では、いずれも含まれない。要注意だ。
- 国籍
- 在留資格
- 在留期間の満了日
- 在留カード等の番号
もうお腹いっぱいかもしれない。しかし、ここからが本番である。
13.在勤・給与証明書
この在勤・給与証明書、みなさんのように海外法人に出向(駐在・赴任)している場合は、それぞれの法人で在勤証明書が必要となる。そのため、日中両方の法人名義で発行する。
さらに…
出向元と出向先の関係(たとえば、日本法人が中国法人への出向を命じた旨)を示す一筆が必要になる。内容としては以下のようなものだ。
○○株式会社は、○○部門に所属する○○を、当社の海外法人である○○(上海)有限公司に○○年○○月○○日より出向中である。
当然だが、この年月日が給与証明書のものと一致することが前提である。また、中国法人が発行する書面が中国語の場合、この証明証の翻訳も必要だ。
本証明書の書式は、法務省が定めた固定フォーマットのみ。そのため、紙媒体のやり取りが発生する。
15.納税証明書
海外に駐在・赴任している間は、属地主義である所得税・住民税がかからないのは周知の通りである。そのため、国税庁や市区町村が本来発行できる納税証明書が出ない。
しかし、”12.生計の概要を記載した書面”では、どの程度収入があるのか、それをどう使っているのか?を記載する必要があり、本内容を証明しなくてはならない。
幸い、中国では各地の納税機関から公的な証明証が発行できる。私の場合は、こちらを援用した。こちらも中国語で記載されている場合(そして、中国語でしか発行されないのだが)は、13同様に翻訳が必要。
なお、自宅を赴任中に賃貸している場合は、確定申告書の写しも別途必要になる。
18.運転記録証明書
運転免許証を取得していて、申請時に有効な場合は、本証明書が必要となる。各都道府県の運転免許センターが発行する証明証となるのだが、発行までにやたらと時間がかかる。たかが紙一枚の発行に2周間近くかかる。
切符を切られている場合、ここに記載されるようだ。家内の場合、ペーパードライバなので、取ったままほったらかしだった。そのため記載事項なしとだけ。
20.土地・建物登記事項証明書
不動産を取得している場合は、収入証明に加えて本証明書が必要になる。購入などはもちろんだが、遺産などで共有持ち分を持っている場合でも、この証明書が必要になる。
ここまでいろいろな証明書や文書が出てきた。
さらっと読んで、感がいいひとはあることに気づくかもしれない。それは、請求先がバラバラな上に、証明書に限って言うと有効期限が定められている(概ね3ヶ月以内)ということ。さらに、海外へ発送ができるものと本人または委任状を持った代理人が窓口へ行かないと取得できないものがある。順序立てて取得しないと、意味を成さないのだ。
これが心が折れそうになる理由だ。
帰化申請まで
上述の大量の書類をかき集めると、法務局による事前チェックが受けられるようになる。ようやっと、スタート地点に立ったわけだ。
このチェックしてくれる窓口は、法務省または地方法務局にある国籍課という日本人は使わなそうなところにある。お役所なので、カレンダー通りの平日昼間にしか開いていない。さらに、チェックがかなり細かく厳しいので何度か通うハメになる。
チェックをパスして受理されると、すぐに別部屋に移動、チェックしてくれた事務員とは別の帰化申請担当者に引き継がれる。
その場で最後の意思確認と宣誓書の読み上げ(ふりがなの一切ない法律文のような文章)をして、帰化申請受付票をもらう。これでようやっと帰化申請が完了する。
この帰化申請受付票もいろいろと無機質。以下に内容を転載。
— 帰化申請受付票 —
次の場合は速やかに連絡してください。
- 住所又は連絡先が変わったとき。
- 身分関係の変動(婚姻・離婚『事実上を含む』、出生、死亡など)が生じたとき。
- 仕事関係(勤務先)が変わったとき。
- 海外へ行く予定(旅行、出張等)が生じたとき。
- 在留資格の変更又は在留期間の更新をしたとき。
- その他法務局へ連絡の必要(交通違反等)が生じたとき。
※受付後の事情変更について連絡がない場合、帰化許可に不利な判断をされる場合がありますので、ご注意ください。
— (ここまで) —
ぼそっと最後に書かれている一文が、まぁまぁコワイ。
ここまででも十二分にお腹いっぱいになるのだが、さらに続きがある。帰化申請の受理はされても、それに必要な事項がまだ終わっていないのだ。申請のあとは、面接と家庭訪問が待っている。
帰化申請 -面接-
まずは面接である。申請が受理されたあと1~2ヶ月ほどした頃に行われる。
面接は、夫婦揃って同日に実施される。ただし、時間と部屋は別々。ひょっとすると面接官も別なのかもしれない。我が家の場合は、私は比較的短く15分ほどで終わった。一方で、家内の面接は30分ほど。
聞かれる内容は人それぞれらしい。われわれが聞かれたことをサンプルまでに記載しておく。
- 家族構成は?
- 親族とはどんな付き合いをしているのか?
- 配偶者との馴れ初め
- 仕事のこと
- 国際結婚のメリット・デメリット
他愛もない内容がほとんどで、これで面接?が印象である。
帰化申請 -家庭訪問-
面接が行われた当日、家庭訪問も行われた。午前に面接を実施、午後にお宅へお邪魔というわけだ。間髪入れずに家庭訪問をするのは、偽装結婚(口裏合わせ)対策なのだろうか?
法務省の職員が複数名(われわれのときは2名、いずれも女性)がやってきて、まずは軽くお話。その後、お部屋を拝見となる。リビングに飾ってあった写真などを世間話を交えながら、しっかりチェックされた。
訪問時間は1時間程度だが、すみずみまでチェックした上で帰っていった。
帰化申請のあと…
ここまでが帰化申請にかかる手続きから書類・申請までである。
すべてが終わるとようやっと審査が始まり、手続き等の煩雑さから開放される一方で、ひたすら待つしかなく悶々とする。家内のビザやその他諸々をこなしてきた私だが、ここまで大量の書類を集めて、数珠つなぎが必要な手続きは初めてである。
審査の結果発表から、その後も続く手続き等については別記事(後半)にて紹介する。
コメント