今年5月に白タクアプリの女性客が乱暴された上、殺された事件。事件は、犯人の自殺で幕を閉じた。運営元が安全確保の約束を宣言したものの、半年も経たず破られる事件がまた起きた。今回は行政の事情聴取やボイコット運動に飛び火している。
C2Cサービスの難しさが露呈
事件は今月8月24日の午後。20歳の女性が白タクアプリの1種、滴滴顺风车を使って移動しようとしたときに起きた。前回と異なり白昼堂々の凶悪事件だったため、各種メディアが大々的に取り上げている。なお、前回の事件については別記事で取り上げている。
犯人とされる20代の男はすでに身柄を拘束されている。
前回の事件では、犯人とされるドライバー(既に死亡)は、身内の身分証や免許証を使っており、偽装が問題になっていた。これを受けて、運営元は資格の再調査と審査の厳格化を約束していた。
车主每次接单前必须进行人脸识别,最大限度杜绝私换账号的可能性
全平台出行相关业务,在之前司机背景筛查、三证验真的基础上作如下整改
ところが、今回のドライバーは身分詐称がなく、また、犯罪履歴もなかった。つまり、書面上からは当該ドライバーの可否ができなかったということになる。もっとも、この手のC2Cサービスは、一人あたりの粗利が薄いので、ある程度の規模を確保する必要がある。そのため、書面上問題なければ原則通す運営側の事情も考えられる。
なお、前回は外務省の安全ガイドラインにも掲載されているような夜間に起きた。そこで運営元は夜間帯の利用について、利用者に事前に警告するようにアプリの設計変更をしている。
在继续评估夜间顺风车合乘双方安全保障可行性的同时,顺风车暂停接受22点-6点期间出发的订单。接单在22点之前但预估服务时间超过22点的订单,在出发前对合乘双方进行安全提示。
しかし、今回は白昼堂々。運営元が安全確保のために行った上述のような対応策をすべて回避した状態だったのだ。
結局は人間がサービスのネックに
では、今回の事件が運営元にとって交通事故だったのかと言うと、そうでもない。多数のメディアで報道されているが、被害者女性はSOS通知を何度もしていたのだ。
根据官方通报,8月24日17时35分,乐清警方接群众报警称其女儿赵某(20岁、乐清人)于当日13时,在虹桥镇乘坐滴滴顺风车前往永嘉。14时许,赵某向朋友发送“救命”讯息后失联。
このSOS通知も前回の事件を受けて、運営元が設計変更をした機能なのだ。緊急事態に遭遇した利用者からSOS通知を受けたら、運営元がまずは状況把握を行い必要に応じて通報できる仕組みになっている。被害者女性もこの機能を使って通知していたのだ。
修改产品设计,将紧急求助功能提升至显著位置。在紧急求助原有功能(按下后上传现场实时录音,由客服监听并回拨用户电话,同时自动发送行程信息给紧急联系人)的基础上,用户可自主选择一键拨打110、120、122及滴滴24小时安全客服等号码。
ところが、ここで中国らしい欠陥がひょっこり顔を出す。人間がシステムの足を引っ張るというものだ。
被害者女性の緊急通知先になっていた友人が当時の状況を以下のように説明している。被害者女性から何度も通知をしたのに運営元のサービスがたらい回しをしていたというのである。
Super_4ong称:第一个一小时中,他分别在15:42、16:00、16:13、16:28、16:30、16:36、16:42致电滴滴平台客服,共计7次。滴滴一线客服回复“一线客服没有权限”、“在这里请您耐心等待,您的反馈我们会为您加急标红”,在一小时还差十分钟的电话里客服表示“一小时还未满,请等待”;在16:42满一小时后,滴滴平台仍然重复上述话语“加急,标红”,并继续要求其耐心等待一小时。
いくらシステム設計を改善させてもAIが向上しても、緊急事態のように個別で例外対応が必要な場合は、どうしても人間が出てくる。そして、やはりと言うか、ボトルネックになる。システムと一緒にソフト(人間)の教育ができなかったことが、今回の事件の根底にあるようだ。
そう言えばG.M.ワインバーグの『コンサルタントの秘密』という古典的な有名書籍にこんなことが書いてある。
コンサルタントの第一法則
依頼主がどういおうとも、問題は必ずある。
コンサルタントの第二法則
一見どう見えようとも、それはつねに人の問題である。
拡大に向けて突っ走った運営元の姿勢も人の問題である。
炎上からボイコット運動へ発展
半年の間に2件も若い女性が乱暴を受けた上に、殺害された事件を受ける凶悪事件が発生したのを受けて、中国政府も重い腰を上げて事情聴取に乗り出した。既に大都市圏では政府が行動を開始しており、順次他のエリアでも行うようだ。
澎湃新闻记者的不完全统计显示,仅8月27日当天,就至少有重庆、广州、深圳、东莞、武汉、贵阳、海口等7个城市的交通运输、公安等监管部门,对滴滴等网约车平台在当地的分公司进行了约谈。算上之前两天已经对滴滴展开约谈的北京、天津、南京,对滴滴等展开约谈的已经达到10个城市。而浙江、广东的省级监管部门也对滴滴进行了约谈。
ここでデジャヴと言うか、前回も見た行動を運営元である滴滴出行はとる。いわゆる一時停止をして改善を行うというもの。
中国の配車大手の滴滴出行は27日までに、相乗りサービスの「ヒッチ」を一時停止すると発表した。ドライバーの男が女性の乗客を強姦・殺害したとして逮捕されたのを受けての措置。
これだけ短期間に立て続けに問題が起きた上、上述のようにたらい回しをした不手際と運営元の利益重視の態度が、中国人の熱いハートに火を入れたようだ。
百度の知恵袋(百度知道)上には、同社のサービスは安全なのか?といった質問が乱れ飛ぶと同時に同社を非難する書き込みが相次いでいる。
さらに、中国SNS最大手のWeibo(微博)上には、同社サービスをボイコットしようというタグ(抵制滴滴)が出回っており、雪だるま式に転載されいてる。
結局、運が悪かった?
少し話はそれるが、中国の殺人の発生頻度をご存知だろうか。
人口が多い分、件数は多い。しかし、人口10万人あたりで見ると、発生件数は0.81件(2017年)と非常に低い。この数字はランキングにした時に、下位(つまり安全)から数えたほうが早い。
この値は中国に住んでる人であれば、感覚とも一致するのではないだろうか。
1月22日から23日にかけて開催された中央政法工作会議によると、2017年に、中国は人口10万人あたりの殺人件数が0.81件で、殺人発生件数の最も低い国にランクインした。
もちろん、日本の0.26件と比べると3倍以上犯罪率が高いが、それでも低い。
話を戻そう。ネットで絶賛炎上している滴滴出行は、昨年1年間(2017年)だけで発注回数が11億件を超えている。そう考えると、半年の間に2件とはいっても、頻度としては低いといえる。
被害者女性にはかわいそうだが、運が悪かったということになるかもしれない。運も実力のうちということか。
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