VPN禁止でネットが規制だらけに
中国当局が2017年の春から1年弱かけて、当局が行っているネット規制を回避する用途で使われているVPNを全面排除する。ネットの安全が国家の基礎であると宣言した習近平政権の姿勢を反映したものだ。在中外国人のネット規制は厳しさを増しそうだ。
VPNの設置・運用の登録が義務化
中華人民共和国工業情報化部(工业和信息化部)は、1月22日付で当局が許可したVPN以外をすべて禁止する通知”关于清理规范互联网网络接入服务市场的通知”を発布した。原文は下記サイトで見ることができる。
本通知に基づいて3月31日よりデータセンタ(IDC)、インターネットサービスプロバイダ(ISP)およびコンテンツデリバリネットワーク(CDN)の各事業者のVPN登録義務化し、無許可のVPNサービスすべてを排除する。
ポイントは次の4点。
- どのような接続であるかは問わない(IDC、ISP、CDNすべて同じ)
- 違法な設置とそのサービス利用を等しく取り締まる
- 又貸しの禁止
- 国境を超えた当局の認可を取らない違法な展開の禁止
影響が大きいのは4番目。
許可を受けた(国内の)業者以外は、すべて自前のVPNサーバの構築・運営はもちろん、それらを借りることも取り締まりの対象としている。実際にVPNを登録しないで運営していた業者(個人)が、逮捕されている。
国を挙げての違法VPN撲滅運動
これに合わせて、『中国政府は14ヶ月におよぶ違法サービスの撲滅運動を実施する』とサウスチャイナ・モーニング・ポストは伝えている。
Beijing has launched a 14-month nationwide campaign to crack down on unauthorized internet connections.
意訳:北京(中国当局)は14ヶ月の非認可インターネット接続を取り締まる全国キャンペーンを立ち上げた。
China tightens Great Firewall by declaring unauthorised VPN services illegal
前回の海外アプリストア禁止(参考記事:中国から海外アプリストア締め出し)と同じ理論で、許可されていない海外VPNサービスを一斉排除する可能性が高い。
ただ、気をつけてほしいのは、VPN=違法ではないということ。原文(中国語リリース)を読むと当局が認証していないVPNを排除すると言っているのだ。つまり、企業が海外と社内情報を共有するためのVPNになんら違法性はない。
マスメディアも次々取り上げたVPN規制
今回のVPN規制について、報道各社およびネットメディアが一斉に取り上げている。
逆に言うならば、「ちゃんと認可を取って認可取得時の申請内容に沿って使っていればいいですよ」という話なのだ。中国に拠点を持つビジネスユースのVPNは大半が認可を取っているため影響は少ない。問題は個人向けだ。中国に拠点を持つ個人向けVPNは多くが無認可のため規制対象となる。
確かに翻訳を忠実にすると上述のような意味になるのだが、問題は中国の許認可制度と言うのは行政法上の裁量権に委ねられるので、中国政府が意図しない規制逃れになるVPN業者を許可するというのはありえない。
類似の報道はEngadget日本語版にも掲載されている。
The Washington Postなどは、中国の新しいVPN規制はあえて言葉をあやふやにしており、政府が取り締まりを自由にできるよう工夫されていると指摘します。ただ、文面からは個人よりもVPNサービスを提供する無許可企業の一掃を目的としているのがうかがえるとのこと。
Gigazineは比較的当サイトに近い見解を示している。
この措置により、政府の規制を回避する「壁越え」と呼ばれる行為は壊滅的なダメージを受けそう。また、中国に住む日本人の間にも波紋は広がります。中国でGoogle、Facebook、Twitterなどの海外サイトを利用するにはVPNサービスの利用が一般的なのですが、今回の措置によって自由なアクセスが厳しく制限されることになると見られています。
日経など企業よりでも今回の件を大きく取り上げている。とりわけ中国に工場など生産拠点をおいている製造業への影響を測りかねているとする報道が多い。たとえば日経新聞系のIT Proなどでは以下のような取り上げ方をしている。
中国政府が無許可の越境VPNへの規制強化を打ち出したことに対し、中国拠点に影響が「ある」が4割超に――。企業のCIO(最高情報責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)などデジタル変革リーダーが集う「日経ITイノベーターズ」の会員アンケートで、中国政府による規制強化を懸念する声が大きいことが判明した。
ざっと見た中で、もっとも的確だったのは、中国在住のテクニカルライターである山谷氏の次の下りである。
GoogleやYouTubeが、あるとき予告なく使えなくなったように、それまで使えていたVPNサービスが、あるとき突然アクセスできなくなることがある。こうした場合、政府公式発表で「このサイトは違法だ」と名指しで指定することはなく、中国外務省で「特定のサイトが使えないということは、そのサイトは違法だということだ」といったコメントを出すことが多い。
GoogleやYoutubeのときもそうであったし、各種VPNプロバイダが規制されたときも名指しで制限したことを明言したことがない。そして、今後もこの点は変わらないはずだ。
それだけにVPNを現地で使えるか?的な現地ルポのような記事と言うのはあまりにも短絡的である。
ネット規制の立役者は獄中。そのあとは?
先述したとおり、海外で有名なVPNサービスはすでにブロックされている。では、なぜ今になってあえてこんな発表をしたのか。
今回の規制強化の意義は、法的に正式に違法化することで利用者の意欲を削ぐことと、その協力者を撲滅することだ。単に規制をするのであれば、すでに実行済みだ。おまけに、ネットを掌握している中国政府ならば技術的に難しくない。技術的な観点からは別記事で紹介している。
2018年現在、国内の検索(百度など)では、海外VPNサービスを検索しても引っかからない(中国語:翻牆『壁超えの意味』)。また、別キーワードで引っかかる中国系VPNはほぼ壊滅状態だ。そのため、海外サイトを漁れる知っている人と知らない人の差がさらに広がるであろう。
そんな中国のネット規制に貢献した立役者は現在、逮捕・控訴されており牢獄の中である。ああ、無情だ。
もっとも、中国人で海外のサービスを利用するメリットはほとんどない。
理由は、SNS的なものは中国人同士のつながりができない上、ほとんどの類似のサービスは中国地元ベンダーが出しているからである。そのため、VPN規制が今後さらに強化されたとしても、中国人が抱怨を言う可能性は低い。すなわち、これらの規制は継続するとみていい。
今後も在中邦人においては、複数サービスを手元においておくことを強くおすすめする。
コメント
Yさん
コメントありがとうございます。
Vyprの即時&強気コメントは頼もしい限りです。
利用について罰則があるようですが,そんなのでいちいち取り締まることもないと踏んでます。
ただ,別件と合わせて訴追される可能性はあるかもしれませんが…そもそも人治の国なのでそのときは何でもありだと思って気にしないことにしています。
VYPRさんはすぐにプレス出しましたね。規制にも対応できるとかなり強気な内容ですが、海外のVPNサーバーへ接続すること自体が禁止であれば、罰則次第ではアクセスするのは少々躊躇しそうです。私見では、VPN接続+通信負荷が高い人は目を付けられてますから注意が必要ですね。
上海在住さん
コメントありがとうございます。
そのとおりですね。
ただ,ネットに限らずお風呂も浄水器を入れないとアレですし,外に出れば防塵マスク,家では空気清浄機などなど数多ありますが…(笑)
Vyprを使っていますが、今のところPCもスマホも問題ないです
いざ使えなくなると困るので、サブ用の業者を見繕っておいた方が良さそうですね
それにしても中国は、ネットに繋ぐだけで無駄な金がかかる…
広州在住さん
コメントありがとうございます。
春節が近づいているので,その兼ね合いもあるのかもしれませんね。
どのみちしばらくは様子見だと思います。
はじめまして。当サイトで紹介されているvyprなど愛用させてもらっていますが、どうなるんでしょうね?
最近突然全く接続できなくなったりしていたので怪しいなとは思っていたのですが、
まさかこのような規制を入れてくるとは。。。
しばらくは様子見ですね。