先日、シンガポールのITEを訪れる機会があり、同国の教育パスの多彩さやソフト・ハードともに充実ぶりを垣間見たのでご紹介。
シンガポールの進学フロー
シンガポールの教育話題で必ず出てくるのが小学校卒業試験(全国統一卒業試験-Primary School Leaving Exam-いわゆるPSLE)。この試験結果でその後たどるパスが大きく変化する。
試験スコアがいい人は特別校やJCへ行き、その後大学へと進む。シンガポールは日本や台湾のように誰でも大学というわけではなく、優秀な人を大学に進学、それ以外の人は手に職をつけてもらい、その経験を基にマネージャーになってもらうのを想定しているのだろう。そして、マネージャーの下には外国人労働者がぶら下がるといった具合だろう。
Polytechnicsは日本で言うところの高専でITE(Institute of Technical Education)は専門学校に近い。英語を見るとはて?と思うのだが、中国語名はもう少しダイレクトで”工艺教育学院”。ここで過程を修了すると証明書が発行され、これが就職活動で役に立つといった具合である。
社会が変化すると必要となる技能も変わってくる。ITEは若年層だけではなく、卒業後のサポート(再学習)もしている。
明るくモダンなキャンパス
現地に行って驚いたのはキャンパスが広々としており、明るくきれいなこと。郊外にありそうなショッピングモールと言われたらうなずきそうなレベル。
シンガポールは花园城市と言われるが、まさにそれを具現化したような雰囲気である。建物内に緑がたくさん植えられており、構内に小川が流れているのだ。
園芸学科もあるので構内の壁一面には学生による緑化も行われており、カラフルな彩色と相まって見る人の目を引きつける。
手に職を…
ここに来る学生は最終的に手に職をつけることである。そのため、実践に役に立つことをどんどん学ぶ。実務で使えても職場がシンガポールになければ意味がない。そこで、学校では現地に雇用受け皿のある企業とタイアップ、学生にカリキュラムを提供する。
たとえば工科であれば生産現場でよく使われているロボットや生産システムを目の前にしながら学ぶ環境がある。
シンガポールの工業地区にはこういったところで学んだ技能をもとに学生の就職を受け入れるというわけだ。また、シンガポールはハブ空港があり、航空機エンジンを開発するロールスロイスがメンテナンス工場を持っている。学校でもエンジン整備を学ぶ場所があり、こちらも企業とタイアップをしている。
ほかにもアニメーションや会計、料理など幅広い学科があり、それぞれスポンサー企業やタイアップ企業がある。キャンパス内には受け入れ先企業の支店もあり、ここで実際に学生が働いていたりする。
充実の施設や制度
前述のとおり生涯学習センターも兼ね備えているのだが、戻ってきた学生に対しても手厚い施設が揃っている。たとえば、保育園が同じ敷地内にある。
子どもを預けた後、親はそのままキャンパスで学習ができる。おまけに、この保育園自体が学生も運営に参加しており(そのため保育園の学科がある)まさに一石二鳥なのだ。親が再び学習したくても子どもの預け先がなくて諦めるどこかの国とは大違いである。
最近はコンピュータ(ソフト)が必須になっているのは周知であるが、デバイス自体はそれなりに高額である。そんな所得層の学生のために政府が費用の一部を補助する制度があり、市中と比べられない価格でパソコンやスマホが販売されている(ただし、所得証明の提示が必要)。
低い離脱率
マネジメントオフィスの方から聞いた話では、こういった手厚いサポートがあるものの一定数の学生はコースを修了する前に脱落すると嘆かれていた。詳しい数字は言えないが、日本の専門学校における離脱率と比べると遥かに低い数字なのだ。
実際に辞めてしまう学生の家庭環境(身分証に紐付いて収入額を把握できる)からわかることは
- 片親(シングルマザーやシングルファーザー)
- 世帯所得が3,000S$未満
- 若くして子どもを持つ
などなど。学校ができる範囲はサポートしており、こういった部分は政府と連携を図りながらフォローしていくのだと言う。その1つが学校外での活動を通じた心を養うプログラムなどである。
日本の場合、国土がそれなりに広いこと、人がいるエリアが分散しているなどそのまま比較はできないが、もう少しシンガポールを見習ってくれたらな~と感じた経験であった。
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