中国向けECは明るい未来?
中国マーケットにECモール経由で参加する企業が増えている(らしい)。日本のECマーケットの伸びは好調だが、小売市場そのものが飽和状態にあるので、海外に活路を見出しているのだろう。中国向けECで成功はできるのか。
日本市場と中国市場
去年(2014年)のEC市場は約12.8兆円。EC市場自体は前年比14%の伸びと好調だ。これは、販売市場のEC化が進んでいる結果である。拡大した市場規模は約1兆6,310億円。このうち、越境ECの貢献分が約5,395億円でEC市場の伸びの内33%は海外が貢献していたことになる。新しく増えた買い手の3人に1人は外国人だったということだ。
日本の消費者による米国と中国事業者からの越境ECによる購入額は2千億円となり、前年比8.9%増だった。米国の消費者による日本と中国事業者からの越境ECによる購入額は8千億円(前年比 13.0%増)、中国の消費者による日本及び米国事業者からの越境ECによる購入額は1.2兆円(前年比 53.0%増)となり、中国で著しい伸びが見られた。
2014年のEC市場規模は12.8兆円でEC化率は4%超えに ー 越境ECは中国で大きな伸び(経産省調査) | Shopping Tribe
注意したいのは、この海外の伸びの中でも中国からの購買が際立っていることだ。伸びしろのうち40%が中国からなのだ。物価が異常高騰している上に、日本円が通貨安に進んでいることも後押しをしているのは間違いない。中国の爆買いがクローズアップされるが、統計で見て取れる通り中国の影響力自体はだいぶ前から増しているのである。おまけに、この金額はECサイト経由に限る。たとえば、淘宝網上の個人商店のように、在日中国人個人が勝手に代講して販売しているケースが含まれていないのだ。ここを正確に含めると相当の金額になるはずである。
ついでであるが、この個人の勝手な輸出が急増したため、日本の国際郵便システムに大打撃を与えているのはあまり知られていない。
日本郵便は1月19日、中国・上海宛ての船便郵便物について、上海港で、輸入郵便物の急増等により中国の郵便事業体の処理業務に大幅な遅延が発生しているため、通常どおりの送達ができない状況にあると発表した。
ヒマラヤより高い中国市場参入の壁
中国のEC市場自体は20兆円とも30兆円とも言われる。統計自体が不正確なので正確な数字は分からない。ただ、これだけ広い国土と日本の10倍以上の人口は魅力的に映る。そんな中国消費者向けの参入は…?と言うと、外資企業にとっては難易度が恐ろしく高い。方法は3つほど考えられる。
- 自社ドメインでサーバは中国外
- 自社ドメインでサーバは中国内
- ECモールの間借り
1と2については下記の記事が細かく書いてある。
簡潔に言うと、2についてはICPライセンス(政府の認証)が必須なのだが、外資では取得は無理である。取得しているケースもあるが、極めて例外だ(取得済み企業の合併や買収などが多い)。1については単にサーバを借りるだけなので楽なのだが、中国ユーザにどうやってリードを作るかが問題だ。
リード生成に数百万円?
ECサイトにとっての生命線はリードである。訪問者数を増やさないことには、売上は絶望的に増えない。海外ではGoogleやYahoo!などに加えてFacebookやTwitterなど窓口は複数ある。しかし、中国には事実上検索サイトは百度くらいしかない。加えて、百度検索サイトは海外サイトへのクロール精度が悪い上に、AdSenseを使わないとほとんど効果が無い。
費用の点から言うと、2については記事のとおりイニシャルコスト数千万円に加えて中国法人の運営コストが看過できないほど高い。1の方がまだマシだが、AdSenseも月100万円ほど掛けないと効果が無いので、どちらも金食い虫である。それだけの売上が出せるならばいいのだが、実際は難しいだろう。
こう書いていくと、3のECモールの間借りが合理的に見える。しかし、このECモールも難がある。中国向けと国際サイトでそれぞれ対象が異なるのである。結局、中国向けにガッツリやろうとすると中国法人が必須になってしまう。
参入後もかさむ割高なECサイト維持費
淘宝網や天猫などのECサイトはどのくらい費用が掛かるのか。この情報は公開されており、だれでも眺めることができる。
費用体系は保証金15万元(業種によって変化)+年会費3万元(同左)+システム利用料(売上額の一定比率)となる。この費用体系自体は、楽天などとほぼ同じだ。
日本の楽天で100万円程度の売上だった場合、アフィリエイト利用した場合でも年間売上1,000万円に対して144万円前後の費用で済む。中国の天猫で同じことをやると400万円以上掛かる(計算方法が不明瞭なのだが都度掛かるとすれば500万円)。
価格一発勝負の中国市場でそれほど高価な商品が飛ぶように売れるとは想像しがたい。大企業が大量の資金を投入してやるならばともかく、体力に限界のある企業が中国のEC参入するのは考えものである。
最大の敵はニセモノ
これらの参入前の障害を乗り越えたとしても、頭の痛い問題は払拭されない。ECサイトで一番重要なのは先に述べたとおりリード生成をどれだけ作れるか?にある。天猫のようなECサイトプラットフォーム上では、他の店との価格競争は避けられない。それでも、仕入元が大量仕入れで価格を下げることができ、ある程度競争ができるのであればまだマシである。問題はもっと別のところにある。それは、ニセモノだ。
中国は政府自身含めて嘘とニセモノで固められている。ECサイトも例外ではない。高級食材として宣伝されていたものが、実は…というニュースが絶えない。
値段が高くても本物とは限らない——。ネット通販で出回っている偽物の「高級食材」が中国の消費者を惑わしている。アリババ傘下の淘宝網(タオバオ)で売上トップを誇った「燕窩」(ツバメの巣)専門店、「燕格格」から購入された商品がこのほど、専門機関の鑑定で偽物と判明した。これをきっかけに、高級食材のネット通販に潜むリスクや問題点がクローズアップされている。
もちろん、いくつかの企業は公式サイトや製造元との正規ライセンスなどを掲げて正当性をアピールケースも多々ある。これで、安心…とは行かないのが中国。製造元との契約書をでっち上げたり、代理店ライセンスを偽造したり…となんでもありである。何が信頼していいのかが、中国人ですら分からないという状況である。この手の情報をまとめた記事も出ているので、こちらも参考になりそうだ。
大和総研の芦田栄一郎シニアコンサルタントは「日本企業にとっては、商品が回転しないと、保管費用がかさむ一方、売れない場合は日本への返送料が発生するなど、保税区モデル本来のメリットを享受できないリスクもある」などと分析。さらに、「保税区モデルに関する政策はまだ始まったばかりで、今後政策が変わる可能性もある」と指摘している。
結局、この中国ECで一番得するのは、当局から事実上独占権を与えられている既存中国ECサイトの胴元だけなのではないだろうか。
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