中国モデルが世界標準になる日-VPN規制からカネまで

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中国がデファクトスタンダードに

中国に進出している日本企業が、日本に出戻りしているという。そして、日本に進出する中国企業は、製品単発ではなくビジネスモデルを持ってくるようになってきた。中国とそのビジネスは大きな変換点にいるようだ。

生産は日本へ、販売は中国へ

ブルームバーグの報道によると、去年2016年に拠点移転をした日本企業の調査結果では、日本への出戻り組が中国への進出組を上回った。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の「2016年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、拠点移転を実施または実施予定の458件のうち、中国から日本が8.5%、日本から中国は6.8%となった。日本への移転が上回ったのは、比較可能なデータのある06年度以降初めて。

日本企業拠点、中国から国内へ回帰-人件費急騰と円安 – Bloomberg

興味がわくのは、海外からの出戻り組は製造機能(高付加価値含む)の移転が多く、海外への進出組は販売などが多いことだ。

ジェトロ-2016年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査

生産拠点としての中国は、その魅力を急速に失っている。コスト面で言えば、上海の最低賃金は2010年1,120RMBと1,000RMB台に乗ったあとも上昇を続け、今年に入って2,300RMBまで上がっている。

上海市は4月1日、法定最低賃金を正社員は月額2,190元(約3万5,040円、1元=約16円)から2,300元に、パートは時給19元から20元にそれぞれ引き上げた。

上海市の法定最低賃金、2017年の上昇率は5.0% | 世界のビジネスニュース(通商弘報) – ジェトロ

賃金だけで約2倍近い上昇だが、これに円・人民元のレート上昇が加わる。時期により多少の上下はあるが、2010年に1RMB=13円台だったレートは、直近では16円台に上昇。中国工場や委託先の加工賃が変化しなかったとしても約25%ほど上がる計算である。この上昇分だけ販売価格に転嫁できればいいのだが、日本の物価指数はほぼ横ばいである。

中国企業の高い生産性

中国が継続的に賃金が上がっていく中、日本の賃金は、ほとんど変化がなかった。そのため、相対的に日本人が安くなったわけだ。以前に取り上げた华为(Huawei)が日本に生産拠点設置も、結果は工場ではないものの、現実味のある話であった。

中国企業が日本に工場を構える日
中国の通信機器メーカ华为(Huawei)が日本に工場を設立する。今回は、研究用途だが、そう遠くない将来、多数の中国企業が日本に続々と生産拠点を作る日は近いのではないか?

でも、中国の賃金がアジア圏で相対的に上がっても、ローコスト製造は今のところゆらぐ様子はない。その強みは大量生産にある。Huaweiをはじめとする中国企業は、全世界から受注・生産する。そのため、賃金が上がっても大量生産による経済の規模が効くので、少ロット多品種生産する日本の工場よりも安価に生産ができる。

また、中国企業もかなりのスピードでシステム化・自動化をすすめている。中国社会は一人っ子政策の影響もあり、日本以上の速度で少子高齢化している。政府と民間が一体になって推し進めているので、強力である。

以前に私がとある案件で金属加工をお願いしようとしたときに、ロット数が少ないために受けて先が見つからず苦労したことがあった。日系と取引がある企業がお情けで受けてくれたのだが、その時の経営者が言った言葉が忘れられない。

『日本からの依頼は注文(要求)が多くて手間がかかる割には、数も金額もパッとしない』

力関係は日本→中国から、中国→日本に変わりつつある。

ビジネスモデルを売り込みはじめた中国企業

力の変化は、製造業にとどまらない。

以前からささやかれていたAlipay(支付寶)の日本上陸である。Alipay自体は、訪日中国人向けに日本でも導入がすすんでいる。今回、これを日本人向けに拡大するという。

中国ネット通販最大手のアリババ集団が来春にも日本でスマートフォンを使った電子決済サービスを始めると一部メディアが報じており、同社など電子決済関連銘柄に物色が向かっているようだ。この報道によれば、アリババ集団は中国で提供する「支付宝(アリペイ)」と同じ仕組みを日本人向けに展開し、3年内に1000万人の利用を目指すようだ。

BS—大幅続伸、アリババが日本でスマホ決済開始との報道で関連物色

現地で生活すればわかるが、中国は非現金決済の先進国である。コンビニはもちろん、個人経営の小売店でも銀聯カードやAlipayが普通に使える。中国人が24時間365日手放さないスマホがあれば、現金を持ち歩く必要がない。

最新の調査でも中国がモバイル決済大国であることを裏付けている。世界のネットユーザー5人に1人が「中国人」で、約6割が店舗でも「モバイル決済」との調査を中国互联网络信息中心(CNNIC)が発表している。

2017年8月4日,中国互联网络信息中心(CNNIC)在京发布第40次《中国互联网络发展状况统计报告》(以下简称为《报告》)。《报告》显示,截至2017年6月,中国网民规模达到7.51亿,占全球网民总数的五分之一。互联网普及率为54.3%,超过全球平均水平4.6个百分点。

第40次《中国互联网络发展状况统计报告》发布

ほかにもVPNを含むネット検閲・規制をシステムと運用ノウハウをセットにして売り込む噂がある。単なる安かろう悪かろうのモノ売りからソリューションを含むビジネスモデルへ転身しているわけだ。

個人・政府がWin-Winな非現金決済

話は戻るが、非現金決済がここまで普及した理由はなんだろうか?個人にとってのメリットで、思いつくのは以下だろうか。

  • ニセ人民元からの解放
  • 紙幣・硬貨の衛生問題回避
  • 盗難問題

人民元は銀行から引き出したお札ですら偽札が出回るなど、深刻な偽札問題に悩まされている。新人民元紙幣が出た理由も、偽札問題への対処だった。現金決済が旺盛だった頃、タクシーで100人民元札を使ってジロジロ見られたり、すり替えされて偽札を掴まされた経験はないだろうか?

新人民元が流通開始
今年の8月に発表されていた新人民元の流通が市中に流れ始めている。印刷自体は11月中旬に始まっていたが、ようやっとお目見えである。

紙幣や硬貨も質の悪さからボロボロになりやすく、これも民衆から嫌がられていたのもあるだろう。また、置き引きなど盗難の多さから解放される利便性が認められたのも大きいはずだ。

一方、政府にとってもメリットが多い。紙幣や硬貨は、新札の印刷と並行して回収も必要である。これは手間と費用が掛かる。紙幣に落書きや政治的な宣伝をするケースもあるので、こういう煩わしさから解放される。

中国政府VS法輪功
ネットから草の根まで広がる戦線中国には、昔から「上有政策,下有对策」という言葉がある。意訳すれば、「上(政府・政権)が何か持ち出せば、下(庶民)は対策を講じる」だろうか。中国の検閲規制に、中国人も無力ではない。かいくぐりながら情報交換してい...

そして、ここがポイントだが、資金の流れを常に監視できることである。中国は人民が団結して時の政府を転覆させてきた歴史である。自身がそうであったために、中国共産党は人民の結束をとても嫌がる。そのために、ヒト・カネ・情報を何が何でも常に監視したいのだ。

ヒトについては身分証にICチップが載ったことで以前よりも早く、正確に把握できるようになった。ホテルはもちろん、飛行機や新幹線でも身分証なしには移動できない。情報については、サーバを政府監視下に置いた上で、VPNの禁止することで情報のコントロールが可能になっている。

もっとも難しかったカネについても、プラットフォームができたことで把握ができるようになっているわけだ。タックスヘイブンをはじめ税金逃れの問題はどこの政府も頭を抱えている。中国政府の思惑から出発したシステムだが、意外と各国に受け入れられるのではないか?

アジアから世界へ

中国市場がここまで大きくなると、どの国の企業も中国のプラットフォーム(ここではAlipay)を無視しづらくなる。少なくとも非現金決済で言えば世界中で使えそうなプラットフォームは、AlipayとPaypalくらいである。中国のモデルが業界標準(デファクトスタンダード)になる可能性は十分にある。

ただ、プラットフォーム含めた中国の企業の裏に、常に中国政府(中国共産党)の影がつきまとう。

中国の上場企業で今春以降、共産党の経営介入が急速に進んでいる。中国企業の定款変更を日本経済新聞社が調べたところ、党が経営判断に深く関わることを容認するなどの項目を盛り込んだ企業が4月以降で約200社にのぼった。

中国企業、「党の介入」明文化 上場288社が定款変更 :日本経済新聞

中国政府が民間企業へ介入するのははじめてではない。以前にも、ネット検閲強化したときに、IT企業の株式を買収し口出しを強化している。

ネット企業株を一部国有化検討
検閲をさらに強化か?中国政府はネット規制の強化策として、ネット企業の株式一部を国有化を検討し始めた。法的な規制に加えて、運営そのものに介入するということだ。ネットの自由がさらに損なわれそうである。

このような状況で、Alipayが広まると民間経済(個人や家庭)への懸念は大きくなるだろう。決済プラットフォームとして確立すると、中国政府が日本国内の経済動向を正確につかめる手段を与えることになる。似たような情報サービスをCCCなどが提供しているが、民間企業が持っているのと外国政府が持っているのでは意味も違う。

ただ、Alipayの決済手数料(店舗側が支払う手数料)はVISAやMasterと比べると安い。業種にもよるが飲食や小売などであれば、VISAが4~5%に対して、Alipayは3%台である。粗利が低い業種にとって1~2%利幅が上がるのはありがたいはずだ。世界各地で雪崩のように鞍替えが起きて、デファクトスタンダードが中国から…ということもあり得るわけだ。

懸念材料はあるものの、個人的には今まで欧米一辺倒だった金融やネットの世界に、アジア発のプラットフォームが殴り込みかけて、標準になるのを応援したい。

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