偉大なる中国は世界一(下から数えて…)
例年どおり『インターネットの自由』の2017年版(原名:Freedom on the Net 2017)が発表された。今年も中国が、内乱続く中東やアフリカ諸国など競合を抑えて1位をキープ。来年は習近平主席の指導で、さらに力強い邁進が期待できそうだ。
インターネットの自由とはなにか?
インターネットの自由度を評価する”Freedom on the Net”。世界報道自由度ランキング(英語: Press Freedom Index)が報道の自由度を評価するように、各国のインターネット事情を評価したのが本記事である。国境なき記者団が複数の評価ポイントに基づいて指標を作ってランキングしているように、インターネットの自由度についても複数の評価ポイントがある。
代表的な評価ポイントが以下である。
- インターネットアクセスでの障害(Obstacles to Access)
- コンテンツの規制(Limits on Content)
- アクセス権の侵害(Violations of User Rights)
たとえば、インターネットのアクセス手段が、現地の平均的な所得に対して高額であったり、身分によって許可されない場合は障害とみなされる。また、サービスを含むコンテンツに対して規制がされていたり、ユーザが自由に利用できない場合も加味される。
ここ数年の顔ぶれを見ると、ランキング上位は強豪が多い。たとえば、独裁政権が続いたあと内戦で荒廃するシリア、外国の報道陣を追放し、国家管轄のメディア以外の報道を許可しないエチオピアやサウジアラビア、中東における反米の筆頭格・イスラム教シーア派の総本山でもあるイラクなどである。
しかし、今年も中国はこれら強豪をしっかり抑えて、堂々たる1位となった。この『インターネットの自由』2017年版のフルレポートは、以下のサイトで見られる。ただし、このレポートを出しているFreedom Houseのドメイン自体が、中国当局から規制されているのでVPNが必須だ。
レポートでは詳細にわたり評価しているが、そこからいくつかピックアップしてご紹介する。
インターネットの自由-概要編
まずは、中国を含む世界のインターネット事情から。
インターネットの利用人口は毎年増えているが、今回は人口比で約8割となった。この円チャートをみるとわかるが、自由(Free)または部分的に自由(Partly Free)の合計が51%。意外にも世界の人々のうち半数は自由にインターネットアクセスができるようだ。
人口マップで表現
さきほどの円チャート表現を、人口ごとに地図化したのがこの図である。
インターネットへ自由にアクセスができて人口規模が大きいのがアメリカ・カナダの北米、西ヨーロッパ、日本など、いわゆる西側(資本主義国家)が多いことが読み取れる。一方、中国やベトナムのような共産主義国家、ロシア・旧ソ連を構成していた独立国家共同体(CIS)のような旧共産主義圏、宗教色が強い中近東などは揃って規制されている。
ほぼイメージ通りではないだろうか?
インターネットの自由ランキング
さて、自由や規制というものは、評価者によってばらばらになりやすい。そこでこのレポートでは、ジャンルを分けてスコア化してランキングをしている。ちなみに、スコアが高ければ高いほどインターネットが自由”ではない”ことを示している。
トップの中国やシリアなど、毎年上位にランキングされる数か国が、キューバなど第2グループに頭一つスコアをリードしているのがわかる。言い換えると、中国は世界でも類を見ない規制が厳しい地域ということだ。ちなみに、世界報道自由度ランキングでも中国は常連である。
なお、世界報道自由度ランキングで圧倒的トップをひた走る北朝鮮は、ここに出てこない。なぜなら、インターネットアクセス自体がほとんどできないからだ。残念。
インターネットの自由-中国編
さて、次に中国の詳細レポートを見ていこう。原文(英語)を見たい方はこちら読むことができる。
今年の中国ネット関連のトピックスは、以下のとおりだ。
トップバッターはサイバーセキュリティ法に絡む実名制の強化である。ほぼすべてのサービス・アプリ、SNSフォーラムで実名制が義務化されたため、当局による監視がより強固になった件である。
A cybersecurity law passed in November 2016 strengthened requirements for network operators to register Chinese users under their real names and store their information withinChina.
さらに今秋からはじまった施策では、SNSなどネット上のグループにおける発言を運営元はもちろん、グループ管理者に一定の義務を負わせるとなり組的な規制が続いている。ちなみに、こういった『となり組』を強制する国家は、この中国以外だと北朝鮮くらいである。
Evidence emerged of greater censorship on WeChat; several people were also detained in relation to comments shared on the messaging platform.
続いて今年の春に指針が示された規制逃れのVPNを違法化し、今夏からはじまった個人利用のVPN規制について取り上げている。
Rules issued in 2017 introduced licensing for virtual private network (VPN) tools, which are used to bypass censorship.
いずれも当サイトで取り上げているが、今年の総括でもやはり取り上げられたわけだ。
プラスポイント
なお、スコアマップを見た方は、中国が2016年と比べると改善されているのに驚いたのではないか?これは、2015年ごろから、国策でインターネット環境改善が進められてきたことが評価されている。
光ケーブルが国内に張り巡らされ、以前は問題となっていた内陸部のネット速度は大幅に速くなった。南北問題もほぼ解消した。儲けすぎと批判されたモバイルキャリア各社も価格を下げるなど、高速なインターネットが安価で手に入るようになったからだ。
10年以上前の中国を知る人であれば、近年の大きな進歩と同感できるはずだ。
依然として続く権利侵害
しかし、それ以外では手厳しい評価が続く。トピックでも取り上げられているとおり、ソフト面(主に政策・運用)での状況は年々悪化している。
インターネットユーザのコンテンツへのアクセスは、規制が年々強化されているのは周知のとおり。とくに海外でよく使われるSNS系へのアクセスは、2016年と比べて規制対象が20%も増えており中国ネットワークの孤立化を指摘している。
Several social media and messaging apps are totally blocked, isolating the Chinese public from global networks. According to censorship monitor GreatFire.org, 171 of Alexa’s top 1,000 websites in the world were blocked in China in 2017 (compared with 138 in mid-2016)
そのほか、国家が管理しているメディア以外の閲覧が規制されたり、中国当局が不適切と考えるコンテンツ(キーワードを含む)が削除される問題など手段および内容双方での規制についても問題視されている。
ユーザの権利侵害の評価は40点中40点と満点(最悪)となっている。
実名制を通じて国家が各個人を管理しており、それが引き起こすプライバシー侵害や拘束など人権への影響、海外サービスに国家が加担してDDoS攻撃している現状を考えれば納得である。習近平政権では、インターネットの皇帝と呼ばれた規制強化の旗振り役ですら拘束・逮捕となる。ましてや一般人はどうなるか、想像に難くない。
在中外国人の苦難の日々は、まだまだ続きそうである…。
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