中国という巨大なイントラネット
日本含めた欧米などいわゆる自由主義国家では、インターネットを含む情報への自由なアクセスが権利として保障されていることが多い。しかし、国によってはインターネットの利用に制限をかけている国もある。VPNがどう役に立つのかをご紹介。
インターネットと途上国
世界には200近くの国や地域があるが、経済的、政治的事情に起因してインターネットへのアクセスを制限している国が少なからずある。有名なところは、北朝鮮やイラクなど独裁国家や秘密主義国家。また、王政の堅持のために国家として制限をしているところとして、サウジアラビアなどがあげられる。ただ、これらの国は規模が小さく、外国人も少ないので話題に上らないことが多い。
インターネットの利用に関して大きな制限をかけているので特に有名なのは中国。”金盾工程”と呼ばれる国家規模のインターネット規制システムが構築されている。
中国金盾プロジェクト
金盾プロジェクトは、海外からは”Golden Shield Project”、”Great Firewall of China”とも呼ばれ、”電脳版万里の長城”などと呼ばれる。複数レポートから、北京・上海・広州に設置されているとされている。
インターネットデータセンター(IDC)同士の相互接続に仕掛けられているので、国内のアクセスはもちろん、国外へのアクセスも必ず監視下に置かれる。当局に都合の悪い内容がないかを常に監視しており、監視対象とはしては「検索エンジンの検索ワード」「検索エンジンの検索ワード」「インスタントメッセンジャーの通信」「SNSやブログに投稿した記事」などが含まれる。このため、中国国内ではGoogleの検索は使えず、Yahooの検索でも語句を間違えると命取りになる。
恐ろしいのは、監視対象が特定の団体や企業のみというわけではなく、一般の個人利用者も監視の対象となっている点で、国民を網羅的に監視する仕組みだ。
国内産業保護の一環?
これらのシステムは、中国のIT産業を保護するためともされている。
理由は、海外のサービスが規制されると同時に国内で類似のサービスがスタートする過去の経緯があるため。例えば、海外で高いシェアを誇るFacebookやYouTubeなどのSNS、LINEなどのチャットアプリへのアクセスに関しても規制がかけられている。
これらの規制をする前後に、Facebookであれば人人網、YouTubeであれば土豆など国内で同類のサービスがスタートイン、爆発的に広まっているからだ。
中国インターネット規制の回避方法
国家プロジェクトで行われているので、非常に大規模で強力だと言える。
以前は、TorやFreegateなどのWebベースのプロキシ技術を利用し、経由地を動的に組み替えることができたが、近年の金盾のバージョンアップと当局の強い監視下におかれ、現在では利用できない。
ただ、抜け道は残されている。それは、VPNによる通信だ。通信内容自体が暗号化されることと、企業がイントラネット構築に利用しているため、当局も遮断ができない。そのため、現在ではVPNを利用する手法が主流になっている。
ところが、今年に入ってから中国当局はVPNについても規制を掛けると噂されており、雲行きが怪しい。
そもそもVPNとは?
VPNとは”Virtual Private Network”の略で、暗号技術や認証技術を利用し、インターネットという公共の通信インフラ上に作り上げる”仮想的な専用線”の技術の総称である。
中国国外に設置してあるサーバとVPN通信を確立すれば、自身のパソコンとサーバとの間で”仮想的な専用線”が準備され、あたかもその国にいるような状況になり、自由な通信ができる。
過去にはVPN技術についてもプロキシ技術と同様に利用規制がかかったことがあり、実際PPTPと呼ばれる通信方式が遮断されている。ただ、上述の通り、現地企業や現地に拠点を設けている海外企業への影響が大きかったことから、一律なVPNの遮断は撤回され、現在は特定の個人向けVPNサービスが遮断されている。
注意したいのは、政治的なイベントが起きるとその都度強化される事がある(例えば、2010年のジャスミン革命や2014年の香港反政府デモなど)。
どこへ行く、中国の規制検閲
ここ数ヶ月、中国の規制検閲に関するニュースは絶えない。2014年の年末からの動向を追ってみよう。
2014年
- 7月 LINEなどチャットアプリ遮断(その後一部撤回)
- 9月 フォトシェアサービス(Instagramなど)が遮断 : 同時期QQが類似サービス開始
- 12月 Gmailが遮断(その後一部復帰)
- 12月 SNSなどの実名義務化(施策内容は不透明)
2015年
- 1月 金盾がバージョンアップ。VPN業者のかなりの数が規制される
- 1月 一部業種について機器やソフトのソースコードの開示義務を発表
- 2月 インターネット利用に実名義務付け
世界の自由化や規制撤回の流れに真っ向から反対する行動だと言える。2016年に入ってからもインターネットの規制に関係する法案や施行が相次いでいる。
中国はリーマンショック直後から労働集約型産業に頼ってきた政策の危うさを反省して、自国の産業育成を図る方向へ方針転換している。その集大成が2012年に発表された重点的な産業育成政策だろう。特にITの育成と国内化に力を注いでおり、2014年に国内の一部産業に国内IT製品の採用を義務付け、ベンダーへの税制面での優遇政策を採っている。また、金盾を使って海外ソフトベンダーの締め出しを狙うなど枚挙にいとまがない。
また、不安定化する社会の引き締めのために習近平の神格化と共産党への啓蒙活動と合わせて、ネットでの政権や政党批判の封じ込めを狙っており、今後も強化されることはあっても簡略化されることは考えづらい。中国はこのネット規制検閲を含めたITモデルの輸出を狙っているともささやかれており、巨大な秘密国家的なイントラネットを世界へと広げようとしているのかもしれない。
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