身分証のオンライン化の先にあるもの
中国政府は、年末から身分証の電子化(オンライン化)に踏み切った。実施地域はまだ限定的だが、今後全国へ展開される。中国当局がおしすすめるオンライン化がもたらすものはなんだろうか?
ネットの完全統制まで、あと一歩の中国
2012年に国家主席に就任した習近平。同政権が就任以来すすめて来たのが、ネットの完全統制である。そのネットを統制するには、ネットを構成する3か所を当局が把握する必要がある。その3か所とはサーバ、トラフィック、エンドユーザである。
1.統制下にある国内サーバ
中国当局はサーバを早い段階で、統制下に置いている。中国国内でサーバを設置する場合は、ICPライセンスが必要で、公開したサーバの挙動およびデータは当局に把握されている。
2.ほぼ把握されているトラフィック
トラフィック(通信)についても、金盾プロジェクトと法改正でほぼ統制下に置いたと言っていい。唯一制御できていなかったのが、VPNを使ったルール破りだ。しかし、それも時間の問題である。法改正によって無許可のVPNを使う”穴あけ行為”は違法となった。
中国国内法が効果をおよぼさない海外VPNは、AndroidにおいてGoogle Playへのアクセスを規制して、iOSにおいては米アップルに圧力をかけて統制下に置いている。
それでも残る抜け穴対策として、個人アカウントのVPNトラフィックで海外へ抜けるものを網羅的に規制する可能性に中国当局は言及している。
3.最後の難関・エンドユーザ
残るのはエンドユーザだ。このラストワンマイルの統制は対象範囲が広い上に、対象となるユーザ(端末)が多いので難しいのだが、習近平政権は実名制の義務化で着実に前へとすすめてきた。
一般に政策を推し進める場合、アメとムチが併用されるのは古今東西で共通だ。ムチについては、昨秋から実施されている。
今回、ラストワンマイルが積極的に参加するようなアメが施行された。それがオンライン身分証(CTID)である。
微信が身分証代わりに
今回、オンライン身分証が試験導入されたのは首都・北京から遠く離れた広東省である。去年の12月25日より広東省広州市の南沙地区でスタートしている。
Wallets could become a thing of the past in China.
Starting next year, the Chinese will no longer have to worry about leaving their identity cards at home, as long as they’re registered on WeChat.
A pilot WeChat ID programme that creates a virtual ID card, which serves the same purpose as the traditional state-issued ID cards, was launched in Guangzhou’s Nansha District on Dec. 25.
微信にお財布機能が付いたときに、似たような機能を後発でよく開発すると思ったのだが、よもや身分証になるとは想像もつかなかった。さすが中国である。
カード型の身分証がオンライン化すると、出張が多い上班族がまずはメリットを享受できそうである。ホテルのチェックインや高速鉄道(高铁)の切符購入や鉄道および飛行機の搭乗で本人確認として身分証が必須だからである。
しかし、エンドユーザは自分にメリットがないと面倒を避けて参加しないのが普通だ。たとえ、罰則があったとしても。
そこで中国当局が編み出したのが、政府が仲介サービスを提供し、匿名性を担保するというもの。淘宝網などでモノを買って、悪い評価をつけたら電話が直接掛かって来た経験はないだろうか?多々ある話だが、よくよく考えてみると購入情報がそのまま流れており、プライバシーがないのだ。
これを政府がプライバシーを保証するのだ。
而对于人们所关注的个人隐私安全问题,官方解释称,身份验证过程直接在公安部数据平台比对并将结果返回给机构,不在互联网空间传输或储存公民个人信息,有效保护了公民个人隐私。
匿名で売買ができるメルカリの中国版といったところだ。実際の運用がどこまで及ぶのか?はまだ未知数ではあるが、プライバシーへの意識が高まってきているので、これならユーザにも喜ばれそうである。
身份证开通认证比对公安部首张广州市用手签发居民个人信息省内凭证全国可信人像受理越秀个人隐私南沙公民的是寄递即可验证办理过
オンライン身分証の作り方
オンライン身分証(CTID)の作り方はとてもかんたんである。
- 微警认证または网证CTIDをダウンロード(下载“微警认证”APP或打开微信“网证CTID”小程序)
- 個人情報を入力して身分証コードを設定(填写个人信息并设置身份证认证码)
- 顔認証を設定(“涮脸”进行人像采集)
- 手続きが終了したら完成(发送相关信息进行比对验证后完成开通)
Android向けアプリストアに書いてある微警认证の説明は、夢物語のような多彩な機能が書かれている。ネットの完全統制ができると最も困難な追跡ができるようになるので、あながち嘘ではない。
微警认证app通过手机对身份证进行读卡联网验证的同时,运用活体人像比对技术实现“人证同一性”校验,认证范围覆盖全国14亿人口,认证过程不会传输公民隐私资料。微警认证有开放接口,供其他Android客户端快速接入,共同加速以二代证为信任根的可信互联网络体系建设,让用户远离网络诈骗、虚假信息、冒名约车等违法犯罪,让互联网更安全。
もっとも一連の手続きが身分証を前提となっているので、そもそも身分証がもらえない外国人は、この恩恵を受けられるか微妙である。
電子化が進む中国と置いてけぼりの日本
中国にかぎらず中華圏の政権は、こういったアメを有効に使った政策誘導が上手である。
たとえば、お隣の台湾では二重帳簿問題が多かった頃に、統一發票という仕組みを導入した。これは店舗が発行するレシートに抽選番号が書いてあり、2か月に1回抽選会が行われる。特別賞は1,000万NTD(約3,800万円)当たるのでみんなこぞってレシートをもらう。こうなると個人商店も二重帳簿が作りづらくなる。エンドユーザに身近な大きなメリットを作り、そこへ上手に誘導していくのだ。
独裁政権の中国と民主政権の日本を単純比較するのは適切ではない。ただ、この政府を含んだ電子化で、日本は中国に大きく水をあけられている。
たとえば、政府の電子化は、1994年に日本は着手したものの未だにほとんどの業務は窓口や印刷・郵送が必要だ。個人でも各地域でいろいろなシステムが乱立し、全国的なキャッシュレスサービスがない。タクシーでは現金のみと言うのも多い。中国人が日本へ来て不便だと感じるのも無理もない。
「あ、そうだ。ここは日本だった! 日本じゃまだ現金しか使えないところが多いんだったっけ」
「日本はこういうところはけっこう遅れているんだよね~」
現金NGが当たり前、激変する中国「決済実情」
アナリストの想像以上の速度で電子化が進む背後に、中国政府が目論む人民ひとりひとりの一挙一動の監視と規制がある。情報の見える化(BI)プロジェクトに政府が熱心に取り組んでいるのもその例だ。そのためにも一挙一動をデータ化し集約する必要がある。完成するとすべてが政府の管轄下になるので、プライバシーがなくなるだろう。
ただ、電子化がもたらす恩恵や効果も小さくない。うまく均衡を取りながら、日本も取り組んで欲しい。がんばれニッポン。
コメント
中国人嫁と生活していますさん
コメントありがとうございます。
プライバシーの問題はマイナンバー制度もそうですがどこまでもつきまといます。この点は同感です。
ただ,一方で決済システムは民生の根幹をなす部分なので,デファクトスタンダード的なものが出てくると,日本の携帯があっという間に駆逐されたような現象が起きます。
そうなると決済する度に日本から富が出て行く上に日本がコントロールできないので経済戦争やられてしまいます。
資源のない日本が締め上げには耐えられないので,PaypalやUnionPayやらWeChatPayなどが争っている今がラストチャンスだと思うのです。
また,中国は個人監視もありますがそれ以上に脱税の防止のために使おうとしているので昔からある10・5・3問題なども一掃しやすくなれば不公平感なども緩和できるんじゃないかと考え,賛成しています。
いろいろ意見の分かれそうなところではありますね。
中国電子化の流れを其程、評価する気にはなれない。電子化による情報が単に社会生活を便利にするものだけであるなら問題は無いが個人のプライバシ-が犯され、社会統制の道具になっている現状をみれば諸手を挙げて導入すべきとも思えない。日本の電子マネ-システム雨後の竹の子状態で乱立しているが単純な情報の一元化をさせぬ抑止ともなるので正常な進化であると考える。銀行カ-ドやクレジットカ-ドは、枚数は必要であるが電子決済に対応し、使用状況の確認は携帯端末等でできるのでもう少し利便性を追求すればシステムが洗練されると思う。中国の様な一極統制とならぬ参集者の多い開かれたシステムが日本や欧米で広がると思う。国民の監視網や思想統制に利用しようとする根幹がある中国の状況は背筋が寒くなる感があります。